所定外労働削減要綱

  

はじめに

わが国は、経済的地位においては、世界有数の水準に達していますが、労働時間が長く、生活のゆとりが感じられないという課題を抱えています。
豊かでゆとりある勤労者生活を実現していくためには労働時間を減らしていくことが大切ですが、今とくに所定外労働が減らないことと年次有給休暇の取得率の低さが問題となっています。
残業や休日出勤など所定外労働の問題については、平成3年に中央労働基準審議会(当時)の了承を得て、「所定外労働削減要綱」が策定されていましたが、平成13年に入って、休日労働の回数等について専門家による検討が行われました。

そしてその検討結果を踏まえ、また、労働政策審議会の了承を得て、休日労働を中心に「所定外労働削減要綱」を10年振りに改定したところです。
この項目では、労使の皆さんが、所定外労働の削減の意義についてお考えいただくとともに、具体的に所定外労働の削減に取り組まれるときにお役に立つように「所定外労働削減要綱」の内容をまとめたものです。 積極的にご活用いただくことを期待しております。 なかなか減らない所定外労働。

下のグラフをご覧下さい。 我が国の勤労者が1年間に働いた時間(総実労働時間)は近年着実に減ってきています。
ところが、残業や休日出勤で働いた時間(所定外労働時間)はあまり減少がみられず、いまだに高い水準にあります。
本来、所定外労働というものは、正規の勤務時間ではどうしても仕事が済ませられない臨時・緊急の場合にのみ行うものです。
ところが実際には、常日頃から所定外労働をしているという傾向が見られます。
このうち休日労働は、平均的にはそれほど多く行われているものではありませんが、一部では相当頻繁に行われています。  

なぜ所定外労働を減らさなくてはならないか

そうは言っても、勤労者本人が納得して所定外労働をしているのであれば問題はないではないか?と疑問を持たれるかもしれません。
しかし、以下に見るように勤労者の生活時間は、労働時間だけではなく、個人の自由時間、家族と触れ合う時間、社会とかかわる時間から成り立っています。
残業や休日出勤が多ければ多いほど、このような時間が犠牲になることになります。
また、残業や休日出勤が多ければ、健康や創造性が失われ、勤労者にとって働きにくい職場になってしまいますし、能率が下がり使用者にとっても良いことではありません。

1. 個人の自由時間
豊かな社会では、自由時間を人それぞれが有意義に過ごし、それらを通じて自己の実現を図っていこうとする傾向が出てきます。これを進めるためには所定外労働を減らし、日々の自由時間を十分に確保し、それが自由に使えるようにすることが不可欠です。  

2. 家族のふれあい
勤労者は家族の一員です。残業や休日出勤が多ければ、それだけ家族がともに過ごす時間が少なくなります。一緒に食事をとることもできず、ほとんど言葉を交しあうこともないといったことでは、充実した家庭生活を送ることも難しくなります。  

3. 地域社会とのかかわり
勤労者は地域社会の一員です。ところが所定外労働が多ければ、時間的な制約から地域社会のいろいろな活動に参加していくことは困難になります。今後、老後生活が長期化していく中で、地域社会の種々な人と交流し、社会にとけ込んでいくことはますます重要になるでしょう。  

4. 健康と創造性
長時間、そして深夜に及ぶ労働、あるいは休日をとらずに働くことは、疲労やストレスの大きな原因です。また、ゆとりのない状態では創造的な仕事は満足にはできません。
 残業を減らして、心とからだのゆとりを取り戻し、健康で創造的な生活を送るようにすることが大事です。
 
5. 働きやすい職場環境
体力的に個人差のある高齢者や、育児や介護など家庭的責任を負う勤労者にとって残業が毎日長時間行われたり休日労働が行われたりするような状態で働くのは難しいものです。
特に家庭的責任を有する労働者についてはその責任を果たすための活動や調整に困難を伴いがちです。
働く意欲のあるすべての勤労者が十分能力をいかして働けるようにするには、所定外労働を減らし、働きやすい職場環境づくりをしていくことが必要です。


所定外労働削減の目標

1. 所定外労働は削減する。
各企業においては、自企業の所定外労働の現状や部門・職種による違いを踏まえ、重点削減対象を設定するなど一層の所定外労働の削減を図る。  
2. サービス残業はなくす。
適正な労働時間管理を実施し、サービス残業を生むような土壌をなくしていく。  
3. 休日労働は極力行わない。
休日労働をさせた場合でも1週間に1日は休めるようにするとともに、休日労働の現状を踏まえ、労使双方が十分に話し合い、回数制限などの取組みを行う。 所定外


労働を減らすために何をするべきか企業の労使が取り組むべきこと
 
  1. 労働時間に対する意識を改革しよう 
    あなたの職場では、特別な仕事もないのにつきあいで残っているという「つきあい残業」はありませんか?
残業や休日出勤を当然視するような雰囲気があっては、所定外労働の削減は望めません。
まずは「職場に長時間いることが善である」という風潮を改め、「所定外労働は、臨時・緊急のときにのみ行うもの」という原則を認識することが大切です。
特に、恒常的に所定外労働が行われている職場では、所定外労働による手当が生計費に組み込まれているといった問題もあって、所定外労働の削減が難しい面もありますが、働く人自らも所定外労働による手当のために残業や休日労働をするといった考え方があればそれを払拭するように務めることが望まれます。
 
2. 業務体制を改善しよう
    あなたの職場では、業務体制が所定外労働を前提にしたものになっていませんか?
仕事にムダやムラが生じるような業務体制は思い切って見直していくことが求められます。
本当に必要な業務だけをやるようにし、特定の人に集中している仕事をできるだけほかの人に分担させるようにすることが大切です。
業務ごとに必要な人員をきちんと確保し、残業や休日出勤をしなくても業務が処理できるような体制をとっていくことが求められます。
特に休日労働については特定の人や部門に集中する傾向が強いことからその理由、状況に応じ、業務体制の見直しや人材育成を図ることが大切です。
このほか在宅勤務や情報機器を利用した勤務形態の導入も業務体制の改善につながります。
 
3. 所定外労働削減のための労使委員会を設置しよう
    所定外労働の削減は、労使のいずれか一方だけが取り組んでもなかなか進むものではありません。
所定外労働を減らすためには何をすべきか労使でよく話し合うことが必要です。
こうした観点から、労使一体となった委員会を設けて、残業や休日労働の削減に向けた目標の設定、具体策の検討及び実施、所定外労働の実態把握等の取組を行い、労使が一体となって目標管理を行い、主体性を持って取り組む体制を整備することが望まれます。
 
4. 「ノー残業デー」「ノー残業ウイーク」をつくろう
    残業を効果的に減らす方策の一つとして、一定の曜日や週を「ノー残業デー」又は「ノー残業ウイーク」として、その曜日・その週には残業を行わないというルールをつくることが考えられます。
「ノー残業デー」又は「ノー残業ウイーク」を定めたら、ポスターの掲示、機関誌でのPR等により、社内に十分広報をし、実効あるものとなるように徹底していく必要があります。
この場合、業務のしわ寄せがその他の曜日・週に回ることがないよう注意しなければなりません。
 
5. フレックスタイム制や変形労働時間制を活用しよう
    所定外労働を減らすことができない理由としては、「業務の繁閑の差が激しい」「取引先の業務時間や顧客の便宜を考えなければならない」、「取引先の発注に時間的余裕がない」、「特定の従業員しかできない業務がある」が多く挙げられています。
特にホワイトカラーの場合は仕事が定型的でなく、時間が不定期になりがちなので、フレックスタイム制を採用し、時間を効率的に配分して全体の労働時間を減らしていくことが有効です。
ただし、在宅勤務等の場合でも同様ですが、フレックスタイム制が導入された場合には、勤労者も労働時間の自己管理をきちんと行うことが大切です。
また、月単位や季節的に業務の繁閑が生じるような場合には、変形労働時間制を採用し、ムダを省いて労働時間を短縮していくことが大切です。
 
6. ホワイトカラー等の残業を削減しよう
    近年、定型的でない仕事が増加する中で、特にホワイトカラーにおいて労働時間の管理が困難となり、残業がなかなか減らないという状況がみられます。
研究開発職など時間管理になじまない職種については、裁量労働制を導入し、勤労者の自主的な活動を尊重することが望まれます。
一方、労働時間管理が可能な職種については、適正な労働時間管理を行い、サービス残業を生むことのないよう、労使で注意を払っていく必要があります。
このため、残業や休日労働を行わせる場合の手続きを厳正にし、使用者が、始業・終業時刻を確認し記録することや、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎として始業・終業時刻を確認し記録するなど、労働時間の適正な把握を心がけましょう。
 
7. 時間外労働協定の延長時間を短縮しよう
    時間外労働協定の延長時間は適切に設定されていますか?
時間外労働を行う場合には労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。
時間外労働協定を締結する労使は、一定期間について厚生労働大臣が定める時間外労働の延長時間の限度を越えないように延長時間を設定し、業務の改善を進めながら徐々にその時間を短縮していくことが求められます。
 

★ミニ知識

フレックスタイム制とは
就業規則及び労使協定で所定の事項を定めた場合には、1箇月以内の清算期間を平均し1週間の労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で、労働者の選択により、週又は1日の法定労働時間を超えて労働させることができます。

変形労働時間制とは
・1箇月単位の変形労働時間制    労使協定又は就業規則等で1箇月以内の一定の期間を平均し1週当たりの労働時間が法定労働時間を超えない定めをした場合においては、その定めの範囲内で特定の週又は特定の日の所定労働時間を法定労働時間を超えたものとすることができます。
・ 1年単位の変形労働時間制    労使協定で1箇月を超え1年以内の期間を平均し週40時間を超えない定めをした場合には、その定めの範囲で特定の週又は特定の日に1週40時間又は1日8時間を超えたものとすることができます。
・ 1週間単位の非定型的変形労働時間制    規模30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店については、労使協定において1週間の労働時間を40時間とした場合に、1日について10時間まで労働させることができます。

時間外労働の延長時間の限度
時間外労働協定の延長時間の限度となる時間であり、下表のとおり一定期間ごとに定められています。

※ ただし、対象期間が3か月を超える1年単位の変形時間労働制により働く者については、下表より短い限度時間が設けられています。
平成13年に育児・介護休業法が改正され、平成14年4月からは、小学校就学前の子を養育する労働者又は要介護状態の家族を介護する労働者が請求した場合には、1月につき24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせることができないこととされました。  

 
期間 限度時間
1週間 15時間
2週間 27時間
4週間 43時間
1箇月 45時間
2箇月 81時間
3箇月 120時間
1年間 360時間
 
  8. 「原則限度時間」を設定しよう 
    時間外労働協定の延長時間は、文字どおり所定外労働が可能な最大限度の時間数であり、通常からその時間数を目途として業務を行っていたのでは、なかなか所定外労働を減らすことはできません。
そこで、その時間外労働協定の延長時間とは別にそれを下回るように「原則限度時間」を設定し、原則として、これを超える所定外労働は行わないようにすることが効果的です。
また、原則としてある時刻以降は残業を行わないという「原則限度時刻」を定めることも考えられます。
 
9. 所定外労働を行う理由を限定しよう
    「ノー残業デー」や「原則限度時間」を定めても、単に仕事があるというような理由で残業をしていたのでは、実効はあがりません。
そこで所定外労働を行うに当たっては、できる限り事前に労使で話し合い、特にノー残業デーの残業や休日労働は、よほどの具体的・限定的な理由がない限り行わないというように労使で取り決めておくことが望まれます。
 
10. 休日を確保しよう
    家庭生活への影響や健康の維持、回復を図る観点から、休日をきちんと確保していくことが大切です。
そこで残業や休日労働を行った場合は、それに応じた代休を与えるといった代休制度を導入することが望まれます。
休日労働は行わないというのが原則ですが、労使双方が十分話し合い回数制限などの取組を行いつつ、やむを得ない場合はあらかじめ休日の振替を行うようにしましょう。
特に家庭的責任を有する労働者は、他の労働者以上に負担を負うことになるため、配慮が必要です。
振替を行う場合においても、育児や介護等の調整を図る必要が出てくることから十分な時間的余裕をもたせるようにしましょう。
さらに、休日の振替等を行う際には1週間に1日も休日が取れていないということがないよう気をつけ、休日労働が集中している者に対してはメンタルヘルスも含めた健康確保措置をとるように心がけましょう。
 
社会全体として取り組むべきこと
 
  1. 企業系列・業界団体の一体となった取組を推進しよう
    所定外労働がなかなか減らない理由の一つに、取引先からの発注や顧客へのサービスといった問題があります。
取引先からの無理な発注が恒常化している状態では、所定外労働を計画的に減らしていくことはできません。
そこで、まず、親企業や取引先が下請中小企業に十分配慮した発注を行うよう努めるとともに、企業系列や業界団体が一体となって労働時間短縮のための基本方針や計画を定めて推進していくことが求められます。
 
2. 過剰サービスを見直そう
    翌日配送の宅急便や、24時間営業の店舗などのサービスの高度化は、消費者の利便の点では、好ましいことですが、中には過剰サービスを提供しようとしてサービスを提供する側の所定外労働時間が長くなるという例もみられます。
そこで、営業時間と労働時間を区別し、営業時間の延長が労働時間を長くすることがないようにするとともに、消費者側も、過剰サービスはサービスを提供する側の長時間労働を引きおこすということを十分認識し、サービスのあり方について考え直していく必要があります。

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