職場における熱中症予防対策要綱

第1 趣旨

別添
 
   職場における熱中症の予防対策については、これまで平成8年5月21日付け基発第329号「熱中症の予防について」(平成21年6月19日付け基発第 0619001号「職場における熱中症予防対策について」により廃止)及び同17 年7月29日付け基安発第0729001号「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」により推進してきたところである。  
 大阪労働局管内の職場における最近3年間(平成18年から同20年まで)の熱中症の発生状況をみると、死亡災害が3件、休業4日以上の災害が60件発生しているほか、労働者災害補償保険法による療養補償に係る給付件数は664件に上り、その件数は年々増加傾向にある。  
 熱中症は、真夏日の日数や熱帯夜の日数が多くなると発生件数も増加する傾向にあり、大阪府内においては熱帯夜の日数が2000年代には1980年代の約1.7倍に増え、救急搬送される熱中症患者も年々増加しているところである。  
 また、糖尿病、高血圧症等が一般に熱中症の発生リスクを高めるとの医学的知見も得られており、健康診断等に基づく措置の一層の徹底が必要となっ ている。  
これらの状況を踏まえ、今般、職場における熱中症予防対策要綱をあらたに策定し、今後は本要綱に則り、熱中症予防対策の一層の推進を図ることとする。

第2 熱中症予防対策


1 管理体制  

(1)  事業者は、熱中症予防対策を推進する責任者(以下「熱中症予防対策責任者」という。)を選任し、本要綱に定める各種対策の実施について統括管理を行わせること。  
(2)  熱中症予防対策責任者は、作業場所のWBGT値を求め、WBGT値が基準値を超え、又は基準値を超えるおそれのある場合には、本要綱に定める熱中症予防対策の徹底を図ることにより、熱中症発生リスクを低減すること。  
(3) 事業者は、別添1の「事業者用熱中症予防チェックリスト」を活用するなどにより、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育等の管理状況を確認し、的確に熱中症予防対策を実施すること。  
(4) 事業者は、建設現場においては現場所長、その他の作業現場においては安全管理者等に対し、大阪労働局が推進する安全宣言運動実施要領に基づき熱中症予防に関する取組を積極的に行う旨を宣言させるよう指導すること。

2 作業環境管理  

(1) WBGT値の低減等
 次に掲げる措置を講ずることにより、作業場所のWBGT値の低減に努めること。
1.  WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある作業場所(以下「高温多湿作業場所」という。)においては、発熱体と労働者の間に熱を遮ること のできる遮へい物等を設けること。
2.  屋外の高温多湿作業場所においては、直射日光並びに周囲の壁面及び 地面からの照り返しを遮ることができる簡易な屋根等を設けること。
 なお、屋内の高温多湿作業場所においても直射日光を遮ることができ るブラインド等を設けること。
3.  高温多湿作業場所に適度な通風又は冷房を行うための設備を設けること。また、屋内の高温多湿作業場所における当該設備には除湿機能があ ることが望ましいこと。
 散水やミストを噴出することで、気温を下げる方法もあること。なお、呼吸用保護具を使用している場合は、フィルターが目詰まりを起こすこ とがあるので注意を要すること。
 また、通風が悪い高温多湿作業場所での散水については、散水後の湿度の上昇に注意すること。
 
 (2) 休憩場所の整備等
 労働者の休憩場所の整備等について、次の措置を講ずるよう努めること。
1.  高温多湿作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所を設けること。また、当該休憩場所は臥床することのできる広さを確保すること。
2.  休憩場所には、体温計及び体重計を備え付けること。
3.  高温多湿作業場所が広い場合には、複数の休憩場所を設けること。
4.  高温多湿作業場所又はその近隣に氷、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等の身体を適度に冷やすことのできる物品及び設備を設けること。
5.  水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行うことができるよう、高温多湿作業場所や休憩場所に飲料水の備付等を行うこと。


3 作業管理  

 (1) 作業負荷の軽減等 
 次に掲げる熱中症予防対策を、作業の状況に応じて実施するよう努めること。
1.  作業の休止時間及び休憩時間を確実に確保し、高温多湿作業場所の作業を連続して行う時間を短縮すること。
2.  身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避けること。
3.  作業場所を変更すること。
 
 (2) 熱への順化 
 高温多湿作業場所において労働者を作業に従事させる場合には、熱への順化(暑さに慣れ当該環境に適応すること)の有無が、熱中症の発生リスクに大きく影響することを踏まえ、計画的に熱への順化期間を設けること が望ましいこと。
 大阪労働局管内における最近3年間の熱中症発生状況をみると、熱帯夜が始まった直後や梅雨明け直後の時期に熱中症の発生が多くみられることから、これらの時期において、気温等が急に上昇した高温多湿作業場所で作業を行う場合には、熱中症の発生に特に注意が必要である。加えて、新たに高温多湿作業場所において作業を行う場合、また、長期間当該作業 場所での作業から離れ、その後再び当該作業場所において作業を行う場合等においては、労働者は熱に順化していないことに留意が必要である。
 
 (3) 休憩
 休憩は、休憩場所において、その日の気象状況及び作業の態様に留意の上、作業者の様子に応じてこまめに取らせること。
 なお、休憩中は、作業着や靴下を脱ぐこと、冷水シャワー等により適度に身体を冷やすことが効果的であること。
 
 (4) 水分及び塩分の摂取 
1.  自覚症状以上に脱水症状が進行していることがあること等に留意の上、自覚症状の有無にかかわらず、水分及び塩分を作業前後及び作業中において定期的に摂取するよう指導するとともに、労働者の水分及び塩分の摂取を確認するための表の作成、作業中の巡視における確認などにより、定期的な水分及び塩分の摂取の徹底を図ること。特に、加齢や疾患によって脱水症状であっても自覚症状に乏しい場合があることに留意すること。
 なお、高血圧症等塩分の摂取が制限される疾患を有する労働者については産業医、主治医等に相談させること。
2.  作業中における定期的な水分及び塩分の摂取については、身体作業強度等に応じて必要な摂取量は異なるが、作業場所のWBGT値がWBGT基準値を超える場合には、少なくとも20~30分ごとに1回、カップ1~2杯程度の食塩水(濃度0.1~0.2%)、スポーツドリンク(ナトリウム濃度40~80mg/100ml)又は経口補水液等を摂取することが望ま しいこと。
 
 (5) 服装等 
 熱を吸収し、又は保熱しやすい服装は避け、透湿性及び通気性の良い服を着用させること。また、身体を冷却する機能を有する服の着用も望ましいこと。
 なお、直射日光下では通気性の良い帽子等を着用させること。
 
 (6) 作業中の巡視 
 熱中症を疑わせる兆候が現れた場合には、速やかな作業の中断その他必要な措置を講ずべきである。したがって、高温多湿作業場所において労働者を作業させる場合には、巡視を頻繁に行い、当該労働者の健康状態を確認すること。
 

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 健康管理  

 (1) 健康診断結果に基づく対応等 
 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第43条から第45条までに基づく健康診断の項目には、糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全等の熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患と密接に関係した血糖検査、尿検査、血圧の測定、既往歴の調査等が含まれていること及び労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の4及び第65条の5に基づき、異常所見があると診断された場合には医師等の意見を聴き、当該意見を勘案して、必要があると認めるときは、事業者は、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずることが義務付けらていることに留意の上、これらの徹底を図ること。
 また、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中等の労働者については、事業者は、高温多湿作業場所における作業の可否、当該作業を行う場合の留意事項等について産業医、主治医等の意見を勘案し、必要に応じて、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講じること。
 
 (2) 日常の健康管理等
 高温多湿作業場所で作業を行う労働者については、睡眠不足、体調不良、前日等の飲酒、朝食の未摂取等が熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることに留意の上、日常の健康管理について指導を行うとともに、必要に応じ健康相談を行うこと。これを含め、労働安全衛生法第69条に基づき、健康の保持増進を図るために必要な措置を講ずるよう努めること。
 さらに、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中等である労働者に対しては、熱中症を予防するための対応が必要であることを教示するとともに、労働者が主治医等から熱中症を予防するための対応が必要とされた場合又は労働者が熱中症を予防するための対応が必要となる可能性あると判断した場合は、事業者に申し出るよう指導すること。
 
 (3) 労働者の健康状態の確認
 労働者は、作業を開始する前に、別添2の「熱中症予防のための体調自己チェックリスト」を参考に、熱中症に関する体調等の自己チェックを行うこと。
 熱中症予防対策責任者にあっては、労働者の同意を得て、同チェックリストの結果を確認する等により、労働者の健康状態を把握するよう努めること。
 作業中は巡視を頻繁に行うとともに、声をかけるなどして労働者の健康状態を確認すること。特に、初めて高温多湿作業場所における作業に就く労働者や一人作業の労働者に対しては注意を要すること。    
 また、複数の労働者による作業においては、労働者がお互いの健康状態に配意するよう指導すること。


 5 労働衛生教育

 事業者は、労働者を高温多湿作業場所において作業に従事させる場合には、適切な作業管理、労働者自身による健康管理等が重要であることから、作業を管理する者及び作業者に対して、あらかじめ次の事項について労働衛生教育を行うこと。
1.  熱中症の症状
2.  熱中症の予防方法
3.  緊急時の救急措置
4.  熱中症の事例
 なお、2.の事項には、1から5までの熱中症予防対策が含まれること。

 6 救急措置

 熱中症は急速に進行し、重症化することから、少しでも熱中症を疑わせる症状が現れた場合は、早期に適切な処置を行い、迅速に医療機関へ搬送することが重要である。   
 このため、次に掲げる措置を講ずること。
 
 (1) 高温多湿作業場所において作業に従事させる場合には、労働者の熱中症の発生に備え、あらかじめ、病院、診療所等の所在地、連絡先及び診療時間帯を把握しておくとともに、緊急連絡網を作成し関係者に周知すること。  
 (2) 熱中症を疑わせる症状が現れた場合は、救急処置として涼しい場所で体を冷やし、水分及び塩分の摂取等を行うこと。
 また、必要に応じ、救急隊を要請し、又は医師の診察を受けさせること。
 なお、医療機関で早期に適切な診療が受けられるよう、別添2の「熱中症予防のための体調自己チェックリスト」及び別添3の「熱中症情報提供書」(不具合になるまでの状況、不具合になったときの状況を記入する書類)を作成し、医師に伝えるなどの対応を行うよう努めること。

第3 その他


 1 WBGT値(暑さ指数)について  
 (1) WBGT値等
    WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度(単位:℃))の値は、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数(下記の式(1)又は式(2)により算出)であり、作業場所にWBGT測定器を設置し、WBGT値を求めることが望ましいこと。特に、WBGT予報値、熱中症情報等により、事前にWBGT値が別添4の表1のWBGT基準値(以下「WBGT基準値」という。)を超えることが予想される場合は、WBGT値を作業中に測定するよう努めること。
 ア  屋内及び屋外で太陽照射のない場合
 WBGT=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度  式(1)
 イ  屋外で太陽照射のある場合
 WBGT=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度  式(2)
 WBGT測定器によるWBGT値の測定が行われていない場合においては、気温及び湿度を測定し別添4の表3を用いる等によりWBGT値を求め、熱ストレスの評価を行うこと。

 なお、WBGT予報値、熱中症に係る情報は、次に掲げる期間のホームページから入手可能である。

 日本気象協会熱中症予防情報
 http://www.n-tenki.jp/HeatDisorder/

 環境省予防情報サイト
 http://www.nies.go.jp/health/HeatStroke/
  
 (2) WBGT値に係る留意事項 
 別添4の表2に掲げる衣類を着用して作業を行う場合にあっては、式(1)又は式(2)より算出されたWBGTに、それぞれ別添4の表2に掲げる補正値を加える必要があること。
 また、WBGT基準値は、既往症がない健康な成年男子を基準に、ほとん どの者が有害な影響を受けないレベルに相当するものとして設定されていることに留意すること。


2 熱中症を疑わせる具体的な症状については、別添5「熱中症の症状と重症度分類」を参考とし、応急措置については、「熱中症の応急処置(現場での応急措置)」に則った対応を図ること。

3 熱中症の医学的知見については、別添6を参照すること。
 
 

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