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(5)本来の「リスクアセスメント」
危なさを「見つける」のでなく「調べる」 | |||
これまでの災害防止では、危険感受性を高め、できるだけ多くの危なさを「見つける」ことに力を注いできました。一方で、「見つける」順序は、目に付いた順、気づいた順など、各人に任されていました。 本来の「安全」を確保するためには、個人の危険感受性や気づきに期待するのでなく、道筋を決め、順序立てて危なさを調べる方法に切り替えていくことが必要です。主観的に「見つける」姿勢から、客観的に「調べる」姿勢に切り替えるということです。 |
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「災害発生プロセス」を踏まえる | |||
危なさを順序立てて調べるためには、「災害発生プロセス」を踏まえることが最も合理的です。全ての労働災害は、「災害発生プロセス」によって説明することができ、災害の成り立ちを理解し、危なさを「調べる」上での基本理念となります。JIS、ISOのリスクアセスメントの原則や、厚生労働省のリスクアセスメント等に関する指針(*1)においても、このプロセスは重要な位置づけをされています。 |
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危険源(ハザード/Hazard) リスクが生ずる原因となるもの、災害を起こす根源となるものを言います。 |
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● | 危険状態 危険源があるだけでは、災害は起こりません。人間が危険源に近づいた状態を「危険状態」と言います。 |
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● | 危険事象 危険状態が発生する場合には、各種の安全対策を施します。もし安全対策の不足や、不適切、不具合、あるいは人の誤りなどがあった場合には、人間が危害を受ける事態になります。これを「危険事象」と言います。 |
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● | 回避 危険事象が発生したとき、人間が逃げることができれば危害を受けないですみます。これを回避と言います。例えば機械のスピードが遅ければ逃げられる可能性がありますが、速ければ逃げるゆとりはありません。 |
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● | 危害 災害が発生し、人間が身体的傷害、または健康障害を受けることを言います。 |
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● | リスク(Risk) 人間が危険源に近づいたことによって発生する、危害の「発生確率」と「ひどさ」の組み合わせを言います。つまり、その危険源が元になって、どのくらいの見込みで危害が発生するか、どのくらいのひどさになるかを、両方考えて大きさを表すということです。 |
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● | 「安全」とは(労働衛生・健康を含みます) 国際的には、「安全」とは、「許容できないリスクがないこと」と定義されています(ISO/IECガイド51:2014)。リスクが「ない」状態を指しているのでなく、「安全」と呼んでいる状態のなかに許容可能なリスクは含まれているということです。また、この定義において「災害」の有無はまったく関係ありません。災害の起きない状態を指して「安全」と呼ぶわが国の一般的な習慣は、国際的な定義とは相容れないものであると言えます。 |
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(*1)「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」 平成18年3月10日、危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第1号 |
「災害発生プロセス」の入口から調べる | |||
「危険源」は、災害を起こす根源となるものを言います。例えば機械の稼動部分や、高所の作業床などがこれに当たります。これら「危険源」に「人」が関わると、プロセスは次の段階へ移行し、リスクが生ずることとなります。 ここで重要なのは、同じ「危険源」であっても「人」の関わり方によってリスクは変わるということです。例えば、プレス機械の加工部分という「危険源」に対し、定常作業で人が関わる場合、金型交換で人が関わる場合、保守や調整作業で人が関わる場合…、シチュエーションによってリスクはそれぞれ違います。定常作業のリスクさえ低ければいいというものではありませんから、「危険源」に対しどのような「人」の関わり方があるか、言い換えれば関与する作業にどのようなものがあるかを、洗い出す必要があります。 |
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また、「危険源」についても、ひとつの設備が加工部分、材料供給部分、搬送部分など、複数の「危険源」を持つ場合が普通です。 これらの「危険源」と、「人」の関わり方を順立て調べていくことが、「災害発生プロセス」の入口から調べるということです。 |
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これまでの見方との違い | |||
「危険源」と言われても馴染みがない、ピンと来ないと感じる方がほとんどではないでしょうか?それは、これまでわが国に、「危険源」=「ハザード」に当たる概念がほとんどなかったからです。欧米では「危険源」、「危険状態」、「危険事象」を、それぞれ別々の概念ととらえていますが、わが国ではこれらを全部まとめて「危険」と呼びならわしてきました。それだけ「危険」に関する概念が大雑把であったということです。 「プレスのスライドにはさまれる」とか、「足場から落ちる」は、「危険事象」にあたります。普段用いる日本語の「危険」は、どちらかというと、「危険源」(=ハザード)よりも、「危険事象」=「デンジャー」に近い意味合いです。わが国では、これまで、災害発生プロセスの入口を飛ばして、いきなり「危険事象」を探し、しかも気づいた順に提案してきたわけです。これが危なさの見つけ方が散発的であった根本的な原因です。 私たちは、「災害発生プロセス」の入口から調べることに慣れておらず、切り替えていくのは容易でありません。特に作業者をそのように誘導するためには、各企業の安全衛生担当者の創意工夫が必要です。リスクアセスメントに取り組む上で、実はこの点が最も難しく重要なポイントとなります。「危険事象」をいきなり探すのでなく、まず「危険源」と「人」の関わりを洗い出すよう、どうしたら誘導できるか、是非考えてください。リスクアセスメントというと、評点の付け方にばかり目が行きがちですが、いままでどおり気づいたものだけを集め評点を付けていても、根本的に何も変わりません。本来のリスクアセスメントの目的は、主観的な「気づき」から客観的な「調査」に切り替え、これまで抽出されなかったものにも光を当てていくことにあります。「災害発生プロセス」の入口から調べるよう、切り替えていきませんか? |
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