「労災かくし」の司法処分状況の取りまとめ結果について
担
当 |
神奈川労働局 労働基準部
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課 長 小 城 英 樹
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主任監察監督官 齋 藤 晃 彦
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統括特別司法監督官 村 田 博 | |
電 話 045-650-2801 | |
ファックス 045-211-7360 |
神奈川労働局報道発表(平成19年6月29日)
―「労災かくし」による送検件数が増加―
「労災かくし」の司法処分(送検)件数
・ 平成 19 年上半期で10件となり、すでに平成 18 年を2件上回っている
過去の司法処分状況からみた主な特徴点
・ 建設業における「労災かくし」が全体の約6割を占める
・ 近年、外国人労働者や派遣労働者を取り巻く事案も顕在化
・ 発覚の端緒の過半数は、被災労働者又はその家族からの相談・情報提供
「労災かくし」絶滅への取組
・ 労働者死傷病報告の適正な提出に関する周知・啓発
・ 相談・情報提供等に基づく臨検監督等を実施し、司法処分も含め厳正に対応
神奈川労働局(局長 河合諒二)では、平成19年6月28日現在における神奈川労働局管内で送検したいわゆる「労災かくし」(労働災害の発生に関し、その発生事実を隠蔽するため故意に労働者死傷病報告書を提出しないもの及び虚偽の内容を記載して提出するものをいう。)の司法処分状況についてとりまとめた。その結果、平成19年の「労災かくし」による送検件数は過去最多であった平成16年(12件)に迫る状況である。
(詳細は、別添「いわゆる『労災かくし』の司法処分状況の詳細等について」のとおり)
労働災害が発生した場合、その発生原因を究明し再発防止対策を講じるとともに、被災者への適切な補償と治療の提供等が求められる。しかし、「労災かくし」が行われる職場では、職場内での危険要因が放置され同種災害が再発するのみならず、被災者及びその家族に対する十分な補償が行われず生活の安定が脅かされたり、適切な治療が提供されず早期の職場復帰が実現されない等、看過できない重大な問題が生じている。
そこで、神奈川労働局では来る7月1日からの全国安全週間を契機として、事業者による自主的な安全衛生水準の向上のための取組を促進することとし、さらに労働災害を隠蔽することなく災害発生原因を究明することにより、職場内の危険要因や不安全行動を排除し、労働災害防止のための実効性のある自主的な安全衛生活動の促進を指導するほか、被災者への適切な補償及び治療の提供が図られるよう周知徹底することとしている。その上で、悪質な労災かくし事案については、引き続き司法処分を含め厳正に対処する方針である。
〔別添〕 いわゆる「労災かくし」の司法処分状況の詳細等について
労災かくしの司法処分状況(別紙資料1(PDF/15KB)、2参照(PDF/33KB))
(1) 年別の推移
「労災かくし」による送検件数は、年間5件前後で推移しながら増加し平成16年をピークに減少傾向にあった。
しかし、平成19年は増加に転じ、半年間で平成18年の総数( 8 件)を上回った。
平成19年6月時点 10件
(参考)平成16年12件、平成17年11件、平成18年8件
* 「労災かくし」事案は災害発生から数ヶ月~1年以上経過して発覚する例が多いことから、労働災害の発生年と
送検した処分年は必ずしも一致しない。
(2) 労災かくしの態様別内訳
「労災かくし」は、隠蔽の目的で故意に労働災害発生の事実を隠すものとされ、次の態様に2分され、労働者
死傷病報告の未報告が6割以上を占める。
1. 労働者死傷病報告の未報告(隠蔽の目的で故意に報告しなかったもの)‥50件
2. 虚偽報告(故意に虚偽の内容による労働者死傷病報告を行ったもの)‥‥27件
(3) 業種別内訳
建設業47件、製造業13件、労働者派遣業6件など
(4) 被災労働者の属性による特徴点
外国人労働者関係 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 20件
労働者派遣(偽装請負含む。)関係 ‥‥ 13件
(5) 労災かくしが発覚した主な端緒
平成 16 年 1 月~平成 19 年 6 月 28 日までの間に送検した「労災かくし」事案が発覚した主な端緒のうち、
「被災労働者又はその家族からの相談・情報提供」によるものが過半数。また、「事業者からの相談・報告」には、
事業者に対する被災労働者等からの補償請求などがあり、隠蔽しきれず事業者が報告したものが含まれる。
1. 被災労働者又はその家族からの相談・情報提供 ‥‥ 23件(56%)
2. 事業者からの相談・報告 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 8件(20%)
3. 元請・関係者等からの相談・情報提供 ‥‥‥‥‥‥‥ 7件(17%)
4. 労災請求の審査又は事情聴取 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 3件( 7%)
「労災かくし」の動機
「労災かくし」を行おうとする動機としては、主に次のようなものが挙げられる。
(1) 労働災害発生による職務評価への悪影響を避けたい。
* 元請の管理責任や職務評価を問われることを避け、また無災害記録の更新等に拘ったりするため、
元請と共謀して下請の労働災害を隠蔽する例もある。
(2) 元請や取引先に迷惑をかけたくない。
* 建設現場で発生した災害は、元請の労災保険により下請労働者の補償手続きも行うこと等の事情もある。
(3) 労働災害発生により、元請や取引先からの受注停止等を避けたい。
(4) 労働災害に関し、行政、元請及び上司等からの指導を避けたい。
(5) 不法就労、偽装請負・違法派遣の発覚をおそれるもの など
「労災かくし」絶滅のための取組等
・ 神奈川労働局ホームページを活用した周知
・ ポスター・リーフレット等の配布による周知
・ 労働者死傷病報告の適正な提出に関する周知・指導等
・ 監督・個別指導、説明会等あら ゆる機会の活用
・ 事業者団体、労働災害防止団体、社会保険労務士会等に対する要請
・ 公共工事発注機関連絡会議等の構成員による受注者への要請
・ 医療機関の窓口等におけるリーフレットを活用した周知依頼
・ 相談・情報提供等に基づく事業場への臨検監督、実地調査等の実施
・ 悪質な事案については、司法処分を含め厳正に対処
さらに、神奈川県内における労働災害発生件数が増加していることから、これを減少に転ずるためにも、労働災害を隠蔽することなく発生原因等を把握し、危険要因の排除などの再発防止対策を講じることが重要かつ不可欠である。そのための手法として、職場内の危険性・有害性を調査し排除するための「リスクアセスメント」の普及促進を図る。
〔参考〕 いわゆる「労災かくし」に係る主な事例
警告を受けた後も労働者死傷病報告を怠った例 (製造業)
20件以上隠蔽し、一部に休業期間中の就労指示などを行った例 (運輸業)
災害発生場所や災害発生状況を偽った例 (製造業)
偽装請負・違法派遣の発覚をおそれ、6社で共謀し隠蔽した例 (製造業、派遣業)
不法就労の発覚をおそれ、隠蔽した例 (製造業)
元請との共謀により虚偽報告を行った例 (建設業)
〔参照法令〕
労働安全衛生法第120条
第3号 第100条 第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者