労務管理上の留意点
労働条件の明示について
- 使用者が労働者を採用するときは、労働条件を明示しなくてはなりません。
- 書面(労働条件通知書など【モデル様式】)の交付により明示しなければならない事項は以下のとおりです
(1) 労働契約の期間 (2) 就業の場所、従事する業務の内容 (3) 始業・終業時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替勤務がある場合には就業転換に関する事項 (4) 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金締切・支払の時期、昇給に関する事項 (5) 退職に関する事項 - 明示された労働条件が事実と異なる場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができます。
- 有期労働契約の場合には基準を守る必要があります。
賃金等について
- 賃金等の確実な支払
賃金は、労働者にとって重要な生活の糧であり、確実な支払が確保されなければなりません。このため、1.通貨で、2.直接労働者に、3.全額を、4.毎月1回以上、5.一定期日を定めて支払わなければなりません(労働基準法第24条)。 - 退職金・社内預金の確実な支払い等のための保全措置
退職金は労働者の退職後の生活に重要な意味をもつものであり、また、社内預金は労働者の貴重な貯蓄ですので、万一、企業が倒産した場合であっても、労働者にその支払や返還が確実になされなければなりません。このため、社内預金制度を行う場合は、確実な支払等のための保全措置を講じなければならず、また、退職金制度を設けている場合にも、確実な支払のための保全措置を講ずるように努めなければなりません(賃金の支払の確保等に関する法律第3条、第5条)。 - 休業手当の支払
一時帰休など企業側の都合(使用者の責に帰すべき事由)により所定労働日に労働者を休業させた場合には、休業させた日について少なくとも平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければなりません(労働基準法第26条)。
労働時間について
- 法定労働時間
法定労働時間は1日8時間1週40時間です(休憩時間は含まれません)。
原則として、1日8時間1週40時間を超えて労働させることはできませんが、例外的に(1)特例措置事業場(2)変形労働時間を採用した場合(3)時間外休日労働協定(36協定)を結び、監督署に届け出た場合などに1日8時間1週40時間を超えて労働させることができます。
また、企画業務型裁量労働制、専門業務型裁量労働制、フレックスタイム制など特殊な決め方もあります。 - 特例措置事業場
商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業のうち、労働者10人未満の事業場は、特例として1日8時間1週44時間が法定労働時間です。 - 変形労働時間制
ある週は所定労働時間を45時間とするが、他の週は35時間とするなど、1ヶ月や1年などの一定期間を平均して、所定労働時間を1週40時間以内とする制度です。(1) 1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月間を平均して週40時間以下とする方法で、就業規則の変更などが必要です。月末が忙しく、それ以外の期間が比較的暇である事業場などに向いています。
例 平成16年10月の場合
休日(8日) : 毎週日曜日、第一・第三土曜日、祝祭日 労働時間 : 1日~25日(18日):1日7時間とする
26日~31日(5日):1日8時間30分とする
(7時間×18日+8時間30分×5日)÷(31日÷7)≒38.05時間(2) 1年単位の変形労働時間制[PDF:450KB]
1年間を平均して週40時間以下とする方法で、就業規則の変更、労使協定の締結、労働基準監督署への届出などが必要です。春や夏など特定の季節が忙しく、それ以外の期間が比較的暇である事業場などに向いています。
例 平成16年4月~平成17年3月の場合 1日8時間とする
休日6日の月:3月
休日7日の月:4月、10月
休日8日の月:5月、9月、2月
休日9日の月:7月、12月
休日10日の月:6月、11月、1月
休日13日の月:8月
休日の合計:105日
一週間の労働時間は以下の計算により算定できます。
(365日-105日)×8時間÷(365日÷7)≒39.89時間
時間外労働について
- 1日8時間1週40時間を超えて労働させる場合、休日に労働させる場合には、「時間外休日労働に関する労使協定(36協定)」を結び、所轄労働基準監督署長に届出ることが必要です。
- 36協定は事業主と労働組合(労働者の過半数で組織するもの)との間で結びます。労働組合がない場合には、事業主と労働者代表(労働者の過半数が認めるもの)の間で結びます。
- 36協定で決めておく項目は(1)時間外休日労働を行わせる理由(2)対象労働者の業務、人数(3)延長時間、休日労働日数の限度(4)有効期間などです。
- 延長時間の限度は以下のとおりです。
期間 1週間 2週間 4週間 1箇月 2箇月 3箇月 1年間 限度時間 15時間 27時間 43時間 45時間 81時間 120時間 360時間
労働時間の適正把握について
- 使用者は、労働者の労働時間を適正に把握・管理する責任があります。
- 使用者は、労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録しなければなりません。
- 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、次のいずれかの方法によらなければなりません。
(1) 確認および記録の原則 - 使用者自らが現認する。
- タイムカード、ICカードなど客観的記録をもとに確認する。
(2) 自己申告制を行わざるをえない場合は、以下の措置を行わなければなりません。 - 制度導入前に対象労働者に対し以下の点を説明すること。
・労働時間の実態を正しく記録し、適正に申告すること
・自己申告制の具体的内容
・適正な自己申告に対して不利益取扱いを行わないこと。 - 自己申告された労働時間と実態が合っているか随時実態調査を行うこと。
- 申告する時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を行わないこと。
(3) タイムカード、残業報告書など始業・終業時刻を記録した書類は、3年間保存しなければなりません。 - 労務管理を行う責任者は、事業場内の労働時間管理上の問題点を把握し解消を図る必要があります。
解雇について
- 以下に該当する場合の解雇は、法律上禁止されています。
(1) 業務上の傷病による療養のための休業期間及びその後30日間の解雇(労働基準法第19条) (2) 産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇(労働基準法第19条) (3) 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法第3条) (4) 労働者が労働基準監督署へ申告をしたことを理由とする解雇(労働基準法第104条) (5) 労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇(労働組合法第7条) (6) 女性であること、あるいは女性が婚姻、妊娠、出産したこと、産前産後の休業をしたことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法第8条) (7) 育児休業の申出をしたこと、又は育児休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第10条) (8) 介護休業の申出をしたこと、又は介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第16条)
(9)子の看護休暇の申し出をしたこと、又は子の看護休暇を取得したことを理由とする解雇(育児・介護休業 法第16条の4)
(10)介護休暇の申し出をしたこと、又は看護休暇を取得したことを理由とする解雇
(11)3歳未満の子を養育する労働者が所定労働時間の制限を請求したこと、又は当該請求に基づき所定労働をしなかったことを理由とする解雇(育児・介護休業 法第16条の9)
(12)小学校就学前の子を養育する労働者が1月24時間、年間150時間を超える時間外労働の制限を請求したこと、又は当該請求に基づき時間外労働をしなかったことを理由とする解雇(育児・介護休業 法第18条の2)(13)小学校就学前の子を養育する労働者が深夜業の制限を請求したこと、又は当該請求に基づき深夜業をしなったことを理由とする解雇(育児・介護休業 法第20条の2)
- 解雇権の濫用について
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。(労働契約法 第16条) - 解雇の手続について
(1) やむを得ず解雇を行う場合には、解雇しようとする労働者に対して、少なくとも30日前に解雇の予告(ただし、この予告の日数は、1日について平均賃金を支払うことで、その日数を短縮できます)、予告を行わない場合には平均賃金の30日分以上の解雇予告手当の支払をしなければなりません(労働基準法第20条)。 (2) どのような場合に解雇するかなど解雇に関することは、労働条件の重要な事項です。このため、解雇・定年制等の退職に関する事項については、就業規則に定めておかなければなりません。また、就業規則は常時作業場の見易い場所に掲示、又は備え付ける等により労働者に周知しなければなりません(労働基準法第89条・労働基準法第106条)。また、労働契約の締結に際し、使用者は「解雇の事由」を書面の交付により労働者に明示しなければなりません(労働基準法第15条)。
退職時等の証明について
労働者が退職する場合に、以下の事項について証明書を請求したときには、遅滞なく解雇予告期間中の在職労働者には「解雇理由証明書」、解雇後及び退職によって離職する労働者には「退職証明書」を交付しなければなりません。また、その証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはいけません(労働基準法第22条)。
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(解雇の場合は、その理由を含みます)
就業規則について
- 常時10人以上の労働者を使用している事業場では、就業規則を作成しなければなりません。
- 就業規則を作成・変更した場合には、過半数労働組合または過半数の労働者代表の意見書を添えて、所轄労働基準監督署に届出なければなりません。
- 就業規則は、必ず下記の(1)~(3)の項目を定めるとともに、掲示・備え付け・交付などの方法により、労働者に周知しなければなりません。
(1) 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交替勤務がある場合には就業転換に関する事項 (2) 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金締切・支払の時期、昇給に関する事項 (3) 退職に関する事項 - 退職手当、賞与などの定めをする場合には、就業規則に定めることが必要です。
- 就業規則の例です。