愛知労働局長が株式会社デンソーの先端技術研究所 伊藤所長と意見交換を実施(令和8年6月25日)

※本記事は、愛知県経営者協会 会報「愛知経協」令和8年9月号より、許可を得て転載しています。
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 愛知池を眺めながら緩やかな丘を登っていくと、株式会社デンソーの先端技術研究所(日進市)があります。株式会社デンソーは、自動車部品メーカーとして世界トップクラスの技術力を有し、自動車産業の発展を支える企業です。先端技術研究所では、緑豊かな研究環境の中で、次世代モビリティやAI、材料、エレクトロニクスなど、未来のものづくりを支える先端技術の研究開発が進められています。
 今回は、愛知労働局の行政運営方針の柱の一つである「多様な人材の活躍促進と職場環境改善に向けた取組」をテーマに、同研究所の伊藤みほ所長と意見交換を行いました。
 
 
― 「理系女性が少ない」と言われる状況で、伊藤所長が理系を志したきっかけとは


小林
 愛知県は日本有数のものづくり産業の集積地である一方で、平均勤続年数の男女差が5.1年と全国で最も大きく、結果として女性管理職比率や男女間賃金差異についても改善の余地があります。「女性活躍の潜在力」があるとも言えますが、企業の方に「なぜ女性の活躍が進まないのか」とお尋ねすると、「理系女性そのものが少なく、採用が難しい」といった声をお聞きします。伊藤所長が理系を志したきっかけをぜひ教えていただきたいです。


伊藤 高校時代に出会った女性の化学教員の影響で、もともと化学の教員になりたいと思っていました。幼い頃から“何かを創り出す”ことが好きでしたので、化学の反応がとても面白く、いろいろ変化する実験も好きでした。また、お菓子作りも好きで、材料を加えることで味が変わったり、分量の違いによって膨らみ方が変わったりするところを、「料理も化学反応のひとつ」と捉えたことで化学への関心が一層深まったのを覚えています。そのため、大学は化学の道に進むことを決め、奈良にある女子大学に進学しました。
大学では研究の面白さに惹き込まれ、引き続き研究したいという思いが強まりましたので、大学院への進学を決めました。そして、先に活躍されていた先輩から多くのお話を聞く中で、企業でも研究を続けられることを知り、「大好きな実験を仕事にしたい」という思いから、民間企業の研究開発職を志しました。


― 「まずは5年間頑張ろう」から30年以上、研究開発の最前線へ
 
小林 製造業は3交代や深夜業があるイメージをもたれる方も多く、「女性に避けられる」「女性向きの仕事ではないため、製造業以外の仕事を求めて若い女性が県外に行ってしまう」といった声をよく聞きます。そのような労働環境のもと、株式会社デンソーへの入社についてどのように考えられていたのでしょうか。

伊藤 ひとくちに製造業と言っても、自動車本体など大きな物を製造する企業もありますし、作る物は企業によって非常に様々です。化学は原子や分子など最小単位を扱う学問であり、私はその研究をしてきましたから、小さな部品一つ一つを扱う方が自分には合っていると思い、株式会社デンソーへの入社を決めました。入社当初は、化学反応を利用した電気自動車(EV)用のリチウムイオン電池の開発チームに配属されました。研究開発の奥深さや新しい技術を生み出す喜びにどんどん魅了されたのを覚えています。それ以降もAIやロボット、量子研究と専門以外の分野も含めて多岐にわたる仕事に携わり、まずは5年間働くつもりが、いつの間にか30年という月日が流れております。新しいことをやることが面白く、好きだったこともありますが、挑戦させてくれる、学ばせてくれる社風がデンソーにはあったと思います。


 

― 制度があるだけではなく「利用しやすい雰囲気」が大切

小林 先ほど、「3交代や深夜業は女性に避けられる」という企業の声があることをお話ししましたが、2024年に実施した「女性に選ばれる地域づくりに向けた車座対談」では、「女性が夜勤をするとなぜ?と聞かれる」「出産適齢期の女性には長期プロジェクトは難しい」といったアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)による発言が今も一部の現場で存在しているとの意見がありました。女性活躍には、まずはアンコンシャス・バイアスをなくし、性別に関係なく社内の様々な仕事を経験し、社内のキャリアアップや成長の可能性をアピールする必要があるのではないかと思っています。また、そうした雇用管理が女性の勤続年数の伸長にもつながるのではないかと考えます。そこで、貴社の採用や定着に関するアピールポイントがあればぜひ教えていただきたいです。
 
伊藤 弊社には育児休職制度や短時間勤務制度、深夜業への配慮など、ライフイベントに応じた制度がありますが、制度があるだけでは不十分だと思っています。実際にその制度が使える職場の雰囲気づくりが重要です。私自身も管理職の際に出産を経験し、育児休業を取得しています。管理職で育児休業…という思いもあり、一度は辞めようか悩んだこともありましたが、周囲の後押しのおかげで辞めることなく職場復帰することができました。制度を利用した女性管理職が職場にいることも、一つのロールモデルとして周囲に与える影響や期待が大きいと感じています。
また、アンコンシャス・バイアスの払拭も非常に重要です。例えば、出産をした社員に対して、本人に確認する前に「出産後は通常の働き方はできない」といった判断をしてしまい、挑戦の機会を狭めてしまう場合があるのではないかと思います。
弊社では、1年に1回、人事面談を通じて、「3年後、5年後のなりたい自分」をヒアリングし、キャリアデザインを早期から考えられる仕組みがあります。その「なりたい自分」になってもらうために必要な成長機会を提供し、スキルアップしながら活躍してもらうサポートすることが管理職の重要な役割でもあります。

 
― 多様な人材の活躍が企業の持続的な成長につながる
 
小林 企業の現場では、「女性は採用時には優秀なのに10年経つと男性に抜かれる」という声も聞きます。その背景には、難しい仕事や成長の機会を無意識に男性へ任せてしまうという偏りがあります。女性の能力発揮に必要な要素として、「機会を与える・期待する・鍛える」という3つの「き」が必要であると思っています。そのため、性別に関係なく早期からキャリアデザインを描ける貴社の取組は非常に心強いものです。
 
伊藤 ありがとうございます。弊社では、性別ではなく能力や適性に基づいて機会を与え、期待し、成長を支援する一連のプロセスを継続することで、様々なライフイベントを経てもキャリア差を生まない組織づくりを目指しています。多様な人材の活躍は企業の持続的成長や新たな価値創出に直結します。性別に関わらず一人ひとりが能力を最大限発揮できる環境づくりが、研究開発力の向上にもつながると思っています。

小林 生産年齢人口の減少が急速に進む中、多様な人材が活躍できる環境づくりは企業の持続的成長に不可欠であり、特に大きな潜在力を持つ女性の活躍を推進することは愛知県の企業にとって非常に重要です。最近では、県内企業や経済団体においても女性活躍への関心が高まり、理工系女性の活躍推進の取組もが広がってきました。多様な人材の活用が企業の成長につながることを経営者の方々に実感していただけるよう、労働局としても働きかけを続けていきたいと思っています。本日はありがとうございました。





愛知労働局の行政運営方針についてはこちらから
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/roudoukyoku/roudoukyoku.html

アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)についてはこちらから
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/kaisei_jokatsu_unconsciousbias.html

株式会社デンソーについてはこちらから
https://www.denso.com/jp/ja/

デンソー先端技術研究所についてはこちらから
https://www.denso.com/jp/ja/business/innovation/research/

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