あっせんによる解決事例
● 賃金引下げに係る事案(労働者からの申請)
【事案の概要】
年俸675万円の契約を交わした半月後に、年俸を550万円に引き下げると言われ、これを拒否して退職した労働者が年俸相当額プラス慰謝料を求めたもの。
【あっせんの状況】
年俸減額の理由について会社側は、「申請人の賃金は管理職としての金額であったが、管理職としての能力が不足していることが判明したため一般職に降格し、一般職としての賃金額を適用させようとしたものだ。」と主張したが、労働者側は、「減額の理由は試用期間だからとしか聞いていないし、管理職としての能力に問題があるとも思っていない。」と主張した。
【あっせんの結果】
あっせん委員より、会社側に対しては、「通常、労働者の同意なく、その年俸を年の途中で引き下げることは出来ないものと考えられており、それを可能にするためには、予め引き下げとなる要件を具体的に定めて労働者に周知しておく必要があるが、今回のケースではそのような事実は認められないので、一定の補償が必要であると考えられる。」と説明され、また労働者に対しては、実際には短期間しか勤務していないこと等を理由として金額面での譲歩を求めたところ、解決金100万円の支払いで合意が成立した。
● 育児休業後の職場復帰を拒否された事案(労働者からの申請)
【事案の概要】
育児休業明けの職場復帰を拒否されたとして、当初は、雇用均等室及び当企画室に職場復帰を求める助言指導の申し出が行われた事案であるが、会社側はあくまでも育児休業を取得したことを理由として職場復帰を拒否しているのではなく、申し出人の職場復帰により、職員間の人間関係に悪影響があると主張して、職場復帰の助言指導に応じなかったため、金銭補償として、精神的慰謝料等を含め270万円の請求が行われたもの。
【あっせんの状況】
会社側の主張としては、「申請人の在職中の不正行為などで労使の信頼関係が崩れてしまっており、そもそも今回の育児休業に入る前にそのまま職場復帰せずに退職するとの合意ができていた。」と申し立てた。これに対して労働者側は、「退職の合意については、育児休業に入る前からいじめがひどく、休業中も繰り返し退職勧奨を受けた結果、強制的に合意させられたもので本心ではなく、すぐに撤回した。」と主張した。
【あっせんの結果】
あっせん委員より、会社側に対しては、「会社が主張している申請人の不正行為は、2年前の話で、当時始末書を提出させるなど、既に処分済であり、その後同じ行為が繰り返された訳でもないことから職場復帰を拒否する理由には成り得ないこと。並びに職場の人間関係が悪化することが懸念されるという主張も復帰拒否いう重大な結果と比較すると理由としては弱いと言わざるを得ないこと。」が説明され、労働者に対しては、訴訟となった場合のデメリット等について説明されたところ、解決金80万円プラス有給休暇手当て(約13万円)の支払いにより申請人が退職勧奨を受け入れることで合意となった。
● 配置転換に係る事案(労働者からの申請)
【事案の概要】
警備会社に就職するにあたり、交通誘導員での採用を断って保安警備員の空きが出るまで待って就職した労働者に対して、取引先の都合(契約の打切り)で発生した保安警備員の余剰対策のため、会社が交通誘導員の業務を行うよう指示したところ、労働者がこれを拒否して退職し、会社に対して1ヵ月分の賃金額(15万円)に相当する損害賠償を求めてきたもの。
【あっせんの状況】
会社側は、「確かに申請人が保安警備員としての仕事に固執していることは認識していたが、今回の指示はあくまでも一時的な緊急避難措置であり、対象者の人選も最も保安警備員として経験が浅い者を対象としたものであり、合理性はあった。」と主張した。
これに対して労働者は、「交通誘導員の仕事は勤務場所や勤務日数も不特定で、保安警備員と比較すると労働条件は大幅に落ちる。そこで、辞めさせたい労働者がいるとその者を保安警備員から交通誘導員に職種を変更するということが今までも行われてきたようだ。また、今までの話合いでの社長の発言から考えて、今回の配置転換は余剰人員対策ではなく、同僚が私のことを使いものにならないと誹謗中傷したことが発端であると考えざるを得ず、まさに私を退職に追い込むための配置転換だった。」と主張した。
【あっせんの結果】
あっせん委員より、会社側に対しては、「入社の経緯から考えると、申請人は保安警備員の職種に限定して採用されたものと考られる余地があり、また、交通誘導員への配置転換が一時的なもので済むという具体的な根拠がないため、労働者への何らかの補償を行った方がいいのではないか。」と説明され、また労働者に対しては、「保安警備員に一時的な余剰が発生していたことは事実であると思われるし、それに対する対策として先ず配置転換を行うというのは間違った対応とも言えない。もちろん配置転換に退職に追い込むという悪意があったと立証されるならば別だが、あっせん制度では元々事実認定は行わないので、会社がそれを否定している以上、配置転換に悪意があったとは断定できない。」旨の説明が行われ、金額面での譲歩を求めたところ、半月分の賃金相当額(75,000円)の支払いで合意が成立した。
● 解雇に係る事案(1) (労働者からの申請)
【事案の概要】
試用期間を延長されていた労働者が、入社して1年3ヶ月目で試用期間が満了(最初の3ヶ月間は臨時雇用、続く6ヶ月間が1回目の試用期間、次の6ヶ月間が延長された試用期間)したとして解雇された。労働者はこれを不服として230万円の損害賠償を求めてきたもの。
【あっせんの状況】
会社側は、「申請人には協調性がなく、上司の指示にも従わないなど、正社員として正式に雇用するには問題があったが、何とか改善出来るかも知れないと考えて解雇せずに試用期間を延長して雇用を続けてきた。会社の就業規則では最長3年間の試用期間を設けているが、申請人についてはこれ以上改善の見込みがないと判断されたため再度の試用期間延長を行わず辞めてもらったもので、何ら問題はないと考えている。」 と主張した。
これに対して労働者は、「元々1年以上も試用期間が続いていること自体正当性がない。また、本採用にならず解雇となった理由にも心当りはない。」と主張した。
【あっせんの結果】
あっせん委員より、会社側に対しては、「試用期間が長期に及んでいる点から考えると今回の解雇には通常の解雇としての正当性が求められると考えられるが、労働者に対する教育の実施等、解雇回避努力が充分だったのかをよく検討する必要がある」旨の指摘が行われ、また労働者に対しては、同僚と比較すると営業成績に劣る点があることは事実であること等を指摘して金額面での譲歩を求めたところ、解決金30万円の支払いで合意が成立した。
● 解雇に係る事案(2) (会社側からの申請)
【事案の概要】
大規模小売店(以下オーナーという)内に設置されたテナントの店員として、テナントを経営する会社から派遣されていた労働者が、接客上の失敗を原因として、オーナー側からの申し入れもあり、解雇された事案。
労働者から解雇撤回を求める助言・指導の申し出があり、失敗の程度や責任の度合い等から考えて、解雇処分が重すぎると判断されたため解雇の撤回を助言したが、オーナーの意向に逆らって同じ店舗で復職させることは困難で、他に適当な配置転換先もないとして助言は受け入れられないとの回答があり、同時に金銭的な解決を求める会社側からのあっせん申請が行われたもの
【あっせんの事前説明の状況】
助言の結果を労働者に伝える際に、解雇の撤回が受け入れられなかったことと金銭解決を求めるあっせん申請が会社の方から提出されていることを説明したところ、賃金の2ヶ月分相当額(36万円)の解決金の支払いを条件に金銭解決に応じると申し立てた。
【あっせんの結果】
あっせんの事務局(熊本労働局 企画室)より労働者からの和解条件を会社に伝えたところ、その条件に応じるとの回答であったため、あっせんを開催する必要性がなくなったと判断し、合意文書を作成・交付の上、事前解決(あっせん開始前解決)事案として処理を終了した。