労災保険制度について

      
労災保険制度について
 
 労災保険制度は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して必要な保険給付を行い、あわせて、被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者とその遺族の援護、労働災害の防止等を目的とする労働福祉事業を行う総合的な保険制度です。
 この制度は、昭和22年に労働基準法による災害補償制度を保険システムにより担保する制度として創設され、その後、度重なる改正により、適用事業の拡大、給付水準の引き上げ、給付内容の拡充、通勤災害保護制度の導入、労働福祉事業の創設等が行われ、今日、災害補償の水準面では充実した 制度になるに至っています。
 
業務災害について
 
 業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。
 業務災害とは、業務が原因となった災害ということであり、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることをいいます。
 この業務災害に対する保険給付は、労働者が労災保険が適用される事業場(法人・個人を問わず一般に労働者が使用される事業は、適用事業となります。)に雇われて働いていることが原因となって発生した災害に対して行われるものですから、労働者が労働関係のもとにあった場合に起きた災害でなければなりません。これらをまとめると、次のとおりとなります。
 
業務上の負傷について

 

(1)事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
 
 これは、所定労働時間内や残業時間内に事業場内において業務に従事している場合が該当します。
 この場合の災害は、被災労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生するものと考えられるので、特段の事情がない限り、業務災害と認められます。
 なお、次の場合には業務災害と認められません。
労働者が就業中に私用(私的行為)を行い、又は業務を逸脱する恣意的行為をしていて、それらが原因となって災害を被った場合
労働者が故意に災害を発生させた場合
労働者が個人的なうらみなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
地震、台風など天災地変によって被災した場合(ただし、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、業務災害と認められます。)
 
(2)事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
 
 これは、昼休みや就業時間前後に事業場施設内にいる場合が該当します。
 出社して事業場施設内にいる限り、労働契約に基づき事業主の支配管理下にあると認められますが、休憩時間や就業前後は実際に業務をしているわけではないので、行為そのものは私的行為です。
 この場合、私的な行為によって発生した災害は業務災害とは認められませんが、事業場の施設・設備や管理状況などがもとで発生した災害は業務災害となります。
 なお、用便等の生理的行為などについては、事業主の支配下にあることに伴う行為として業務に附随する行為として取り扱われますので、この場合には就業中の災害に準じて、業務災害として認められない場合を除いて、施設の管理状況等に起因して災害が発生したかというものと関係なく業務災害となります。
 
(3)事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
 
 これは、出張や社用での外出など事業場施設外で業務に従事している場合が該当し、事業主の管理下を離れてはいるものの、労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているわけですから事業主の支配下にあり、仕事の場所はどこであっても、積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的に業務に従事していることから、業務災害について特に否定すべき事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。
 
業務上の疾病について
 
 疾病については、業務との間に相当因果関係が認められる場合(業務上疾病)に労災保険給付の対象となります。
 業務上疾病とは、労働者が事業主の支配下にある状態において発症した疾病のことを意味しているわけではなく、事業主の支配下にある状態において有害因子にばく露したことによって発症した疾病のことをいいます。
 例えば、労働者が就業時間中に脳出血を発症したとしても、その発症原因に足り得る業務上の理由が認められない限り、業務と疾病との間には相当因果関係は成立しません。一方、就業時間外における発症であっても、業務上の有害因子にばく露したことによって発症したものと認められれば業務と疾病との間に相当因果関係は成立し、業務上疾病と認められます。
 一般的に、労働者に発症した疾病について、次の3要件が満たされる場合には、原則として業務上疾病と認められます。
 
(1)労働の場に有害因子が存在していること
 
 この場合の有害因子は、業務に内在する有害な物理的因子、化学物質、身体に過度の負担のかかる作業態様、病原体等の諸因子を指します。
 
(2)健康障害を起こしうるほどの有害因子にばく露したこと
 
 健康障害は、有害因子へのばく露によって起こりますが、当該健康障害を起こすのに足りるばく露があったかどうかが重要です。
 このようなばく露の程度は、基本的には、ばく露の濃度等とばく露期間によって決まりますが、どのような形態でばく露を受けたかによっても左右されるので、これを含めたばく露条件の把握が必要となります。
 
(3)発症の経過及び病態
 
 業務上の疾病は、労働者が業務に内在する有害因子に接触し、又はこれが侵入することによって起こるものなので、少なくともその有害因子へのばく露開始後に発症したのでなければならないことは当然です。
 しかし、業務上疾病の中には、有害因子へのばく露後、短期間で発症するものもあれば、相当長期間の潜伏期間を経て発症するものもあり、発症の時期はばく露した有害因子の性質、ばく露条件等によって異なります。
 したがって、発症の時期は、有害因子へのばく露中又はその直後のみに限定されるものではなく、有害因子の物質、ばく露条件等からみて医学的に妥当なものでなければなりません。
 

通勤災害について
 
 通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。
 この場合の「通勤」とは、就業に開し、(イ)住居と就業の場所との間の往復、(ロ)就業の場所から他の就業の場所への移動、(ハ)単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとされていますが、往復又は移動の経路を逸脱し、又は中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の往復又は移動は、「通勤」とはなりません。ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き「通勤」となります。
 このように、通勤災害とされるためには、その前提として、(イ)から(ハ)までの往復又は移動が労災保険法における通勤の要件を満たしている必要があります。
 そこで、労災保険法における通勤の要件をまとめると次のようになります

(1)「就業に関し」とは
 
 通勤とされるためには、往復又は移動が業務と密接な関係をもって行われることが必要です。
 したがって、上記の(イ)又は(ロ)の往復・移動の場合、被災当日に就業することとなっていたこと、又は現実に就業していたことが必要です。このとき、遅刻やラッシュを避けるための早出など、通常の出勤時刻と時間的にある程度の前後があっても就業との関連性は認められます。
 また、(ハ)の移動の場合、原則として、就業日の前翌日までに行われるものについて、就業との関連性が認められます。

(2)「住居とは」
 
 労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。
 したがって、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、そこから通勤している場合には、そこが住居となります。
 また、通常は家族のいる所から通勤しており、天災や交通ストライキ等の事情のため、やむを得ず会社近くのホテル等に泊まる場合などは、当該ホテルが住居となります。
 
(3)「就業の場所」とは
 
 業務を開始し、又は終了する場所をいいます。
 一般的には、会社や工場等の本来の業務を行う場所をいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。

(4)「合理的な経路及び方法」とは
 
 往復又は移動を行う場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。
 合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。
 また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切りの車庫を経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。
 しかし、特段の合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。
 次に、合理的な方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、平常用いているかどうかにかかわらず、一般に合理的な方法となります。
 
(5)「業務の性質を有するもの」とは
 
 以上説明した(1)から(4)までの要件をみたす往復又は移動であっても、その行為が業務の性質を有するものである場合には、通勤となりません。
 具体的には、事業主の提供する専用交通機関を利用する出退勤する場合や緊急用務のため休日に呼出しを受けて緊急出勤する場合などが該当し、これらの行為による災害は業務災害となります。
 
(6)「往復の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは
 
 逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うことをいいます。
 具体的には、通勤の途中で映画館に入る場合、バーで飲酒する場合などをいいます。
 しかし、通勤の途中で経路近くの公衆便所を使用する場合や経路上の店でタバコやジュースを購入する場合などのささいな行為を行う場合には、逸脱、中断とはなりません。
 通勤の途中で逸脱又は中断があるとその後は原則として通勤とはなりませんが、これについては法律で例外が設けられており、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び通勤となります。
 なお、厚生労働省令で定める逸脱、中断の例外となる行為は以下のとおりです。
(1) 日用品の購入その他これに準ずる行為
(2) 職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含みます。)、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
(3) 選挙権の行使その他これに準ずる行為
(4) 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為

通勤の形態の説明

通勤の範囲の説明





        

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