解雇をするか悩んでいます・・・

A:先日、上司に暴力を振るってしまった社員(仮にXさん)がいまして・・・
 他の従業員への影響を考えると、このままXさんを雇用し続けるのは難しいのではと思い、Xさんを解雇するしかないと考えているんですが・・・
 
B:なるほど。そもそも、退職と解雇の違いについてはご存じですか? 

 
A:退職との違いですか。改めて考えたことはありませんでした。
   
                                                       ~退職と解雇の違い~
B:労働契約の解除という点ではどちらも共通しています。労働者の申出によって労働契約を解除するのが退職です。一方で、使用者の意思表示によって労働契約を解除することを解雇と言います。解雇は、労働者の意思に関係なく、労働契約を解除できるので、法令で一定の規制を設けています。

A:解雇には規制があるんですね…
 実は、暴行騒動のあと、Xさんと面談したのですが、Xさんに退職の意思はないようでした。解雇に規制があるのであれば、繰り返し、Xさんと面談をして、無理矢理にでも退職届を書かせて、退職扱いにすれば、ややこしいことにならなそうですね。
B:落ち着いてください。おっしゃるとおり、退職を促すこと自体は、法律で禁止されていることではありません。一般に退職勧奨と言われています。
しかし、今回のように、退職の意思がないとXさんがはっきりと言っているのにも関わらず、長時間に及ぶ面談をしたり、繰り返し退職を迫ったりするような行為をしてはいけません。このような行為を不当な退職勧奨と判断して、会社に慰謝料の支払いをするよう認めた裁判例もあります。
 また、無理矢理退職届にサインさせるような行為は、強要罪などの刑法犯にも問われかねません。この場合、退職届が無効となることもあり得ます。
A:あまり脅かさないでください。では、解雇するしか方法はないようですね。先ほど話していた解雇の規制について具体的に教えてください。

 
   
                                              ~解雇できないケースと解雇理由~
A:わかりました。まず、解雇の理由として、認められていないものがあります。
 国籍、信条、社会的身分や性別を理由とする解雇は当然認められませんし、労基署に申告をしたこと、産前産後や育児、介護休業を取得したことを理由とする解雇も禁止されています。
 また、如何なる理由があっても、業務上の労災による休業期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は、解雇してはいけません。
A:今回はどれにも該当しませんね。つまり、Xさんを解雇して問題ないということですね。
 
B:ですから、落ち着いてください。さきほどの理由に該当しなくても、社会通念上相当でなく、合理的な理由のない解雇は裁判で無効と判断されることがあります。この理由は、個別の事案ごとに裁判所が判断することとなります。今回のケースは傷害の程度や報道の有無などが分かりませんので、一概には言えませんが、一般的には、会社が、労働者に必要な注意や指導をして改善を求めたり、配置転換により解決を図ったりしていない場合は、無効と判断している場合が多いです。  
A:会社としてもすべきことがないかを検討しなければなりませんね。Xさんやほかの労働者から当時の状況をもう少し詳しく聞いてみる必要がありそうです。
   
                                                           ~解雇の種類~                                    
B:ところで、御社では就業規則を作成していますか?また、その就業規則に懲戒規定を設けていますか?
A:就業規則はありますが、懲戒規定まであったかどうか・・・。
 
B:解雇には、概ね、普通解雇と整理解雇と懲戒解雇があります。懲戒解雇は懲戒処分の一種で、場合によっては、退職金を減額したり、不支給としたりすることも認められます。それぞれ、裁判所が妥当と認める判断基準が変わります。懲戒解雇は、普通解雇と比べて、労働者の被る不利益が大きいので、裁判所は、より厳格に妥当性を判断します。そもそも、予め定めた就業規則の懲戒規定に該当しなければ、懲戒解雇をすることはできません。
A:就業規則を整備しておかないと、いざというときに困るんですね。確認したいと思います。

 
B:今回のケースとは関係ありませんが、整理解雇についても簡単に説明しておきます。整理解雇とは、雇用調整のために行う解雇のことで、整理解雇が妥当か判断する要件は、過去の裁判例で概ね確立しています。具体的には、人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行の有無、対象者選定の合理性、十分な労使協議の有無によって判断します。
   
                                                          ~解雇の手続き~
B:解雇の話に戻りましょう。

 
A:え、解雇理由以外にも何かあるんですか?

 
B:はい。先ほど申し上げた3種類のいずれの解雇をする場合も、必要な手続があります。
 
A:手続きですか?

 
B:はい。解雇をする30日以上前に解雇の予告をするか、又は30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
A:どのような解雇であっても、概ね1か月分は労働者の生活を保証しないといけないということですね。平均賃金というのは聞き慣れない言葉ですが・・・?
B:平均賃金は、基本的には、解雇を予告する直近3か月間に支払った賃金を、3か月間の暦の総日数で除することで求められます。解雇の予告については、労働基準法に定められていますので、違反した場合、労基署の是正勧告を受ける可能性があります。
A:よくわかりました。もう一度、しっかりと事実確認をして、懲戒規定に該当するか、解雇以外の方法はないかを検討したいと思います。解雇をする場合でも、適正な手続きを踏んだうえで、理由についても納得してもらえるよう、Aさんと十分に話し合いたいと思います。
   
                                                        ~争いとなった場合~
B:先ほど説明した解雇の理由について、仮にXさんの理解が得られず、Xさんから慰謝料などを請求され、その金額に折り合いがつかなくなってしまった場合など労使間のトラブルに発展したときは、労働局では、個別労働紛争の解決を援助するサービスを行っていますので、ご利用を検討ください。
 この制度は、専門家を交えた話し合いの場を設け、和解を促す制度です。裁判所の判決のような効力はありませんが、手続きは裁判に比べて簡便ですよ。
A:会社から申請することもできるんですか?

 
B:はい。労使双方が申請できます。

 
A:Xさんが話し合いの場に出席しないと意思表示した場合どうなりますか?

 
B:その場合は、打ち切りになります。労使双方に言えることですが、紛争が長期化したり、費用がかかったりすることが本位でない場合は参加してくれることが多いのではないでしょうか。
 
 
        解雇は労働者にとっても重要な問題!
          理由の明確化と適正な手続きを!
 

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