2 会社が存続している場合の労働債権確保

Q2-1 勤め先に未払賃金を払ってもらうためにはどうすればいいの?
未払賃金があるときは、まずは使用者側と真摯な話合いの場を持つように努めましょう。また、労働組合を通じて交渉を行っていくという手段もあります。
 それでも勤め先が支払に応じない場合、勤め先に支払を強制する方法として次のようなものがあります。
民事訴訟手続き(調停、支払督促、小額訴訟、その他訴訟)の利用
一般先取特権の行使

参考
○勤め先への借金と未払賃金の相殺

 お互いに同種の債権を持ち合っている場合(例えば、勤め先からの借金と未払賃金は、どちらも「金銭債権」という同種の債権に当たります。)には、一方が相手方に意思表示をすることによって、対応する額の範囲内で債権どうしを相殺することができます。(民法第505条以下)

 意思表示の方法は特に定められていませんが、例えば「内容証明郵便」を利用する方法等があります。(なお、「内容証明郵便」についての詳細は、郵便局にお問い合わせください。)
 使用者側からの一方的な相殺は、労働基準法で禁止されていますが(労基法第17条、労基法第24条)、労働者側からの相殺については、特に制限はありません。ただし、一定の条件があります。また、法律上の倒産手続に入った場合等には、相殺をすることが制限されることがあります。

Q2-2 訴訟等の具体的な手続きは?
 訴訟には手間も時間もかかると思われがちですが、調停、支払督促、少額訴訟といった簡易・迅速な手続きもあります。それぞれの手続の概要は次のページのとおりです。

参考
○訴訟等にかかる期間

 調停手続の場合、おおよそ1ヶ月に1回くらいのペースで調停期日が設定され、事案にもよりますがおおよそ半年くらいで結論が出ることになります。支払督促の場合、相手方から異議が出なければ1ヶ月程度で終わりますが、異議が出されると本訴に移行され、時間がかかることになります。本訴の場合、途中で和解をすると早期の解決が図れますが、判決までいくと第1審だけで数ヶ月~数年はかかる場合もあります。ただ、最近では訴訟の迅速化が図られつつあります。
○訴訟に要する費用

 訴訟に要する費用としては、裁判所の手数料(印紙代)、予納郵便切手代、弁護士を依頼する場合の弁護士費用が基本です。弁護士費用には、大まかに分けて着手金、報酬金等の弁護士報酬と、収入印紙代、交通費などの実費があります。


調 停
支払督促
少額訴訟
通常訴訟
制度 裁判所において、調停委員会の仲介等により、話合いで紛争を解決する手続です。 裁判所書記官が、債務者に対し、簡易迅速に金銭の一定額等の給付を命ずる手続です。 60万円以下の金銭を請求する場合に限り、あまり複雑でない紛争について、原則として審理を1回で終わらせ、その場で判決を出す訴訟です。 裁判所が、法廷で、お互いの言い分や証拠に基づいて、判決という形で判断を示し、紛争を解決する手続です。
強制執行 相手方が調停で定められた合意内容に従わない場合にできます。 債務者が支払をせず、督促異議を申し立てない場合に、一定の手続を経てできます。 相手方が判決に従わない場合にできます。
改めて訴訟等で争うことになります。 債務者から督促異議が申し立てられた場合は、訴訟手続に移行します。 被告の申述等により、通常訴訟に移行する場合があります。
(原則) 相手方の住所地を管轄する簡易裁判所
140万円を超える金銭を請求する場合は、地方裁判所
申立書
手数料分の収入印紙
証拠等の書類等
申立書
手数料分の収入印紙等
訴状
手数料分の収入印紙
証拠等の書類等
手数料 例えば、調停を求める事項の価額が100万円までの部分は、その価額10万円までごとに500円 請求の目的の価額に応じて、右記の場合の2分の1の額 例えば、訴訟の目的の価額が100万円までの部分は、その価額10万円までごとに1000円
* 上記手数料は一部ですので、事案ごとに裁判所等で確認してください。(参照:民事訴訟費用等に関する法律)

*

郵便切手の予納(裁判所から相手方に書類を送るために必要なものです。)・・・数千円
注)切手の種類・金額は裁判所で確認してください。

Q2-3 一般先取特権って?
労働債権には「一般先取特権」という担保物権が与えられています。
 なお、一般先取特権が与えられている範囲は、従来、株式会社・有限会社・相互会社については商法により賃金等の全額(退職金についても全額が含まれる。)、それ以外については民法により賃金等のうち最後の6ヶ月分(「最後の6ヶ月分」)とは、6ヶ月の給料に相当する額をいい、これは退職金についても同様。)とされていましたが、平成16年4月1日に施行された「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、民法の一般先取特権の付される労働債権の範囲が商法と同じとされました。

参考
○担保物権

 担保物権とは、債権が履行されなかった場合に、債務者等が所有する一定の物や権利が有する価値から、優先的に債権の履行を受けることができる権利です。例えば、抵当権や質権は担保物権の一種です。

Q2-4 差押えはどのようにすればいいの?
 労働債権について、いわゆる「差押え」をする方法には、大きく分けて以下の2つがあります。
(裁判所の確定判決等に基づいて行う)強制執行
一般先取特権の実行
 裁判所の確定判決等、強制執行を行う前提となる手続については、Q2-2を参照してください。


強制執行
一般先取特権の実行
制度
裁判所の確定判決等(「債務名義」といいます。)に基づいて、債権を回収する手続きです。 労働債権に与えられた一般先取特権という担保物権に基づいて債権を回収する手続きです。
裁判所の判決等
事前に、裁判所に確定判決、和解調書、調停調書等の債務名義の書類を提出して、強制執行できる旨の文章(「執行分」といいます。)をつけてもらいます。(ただし、例外として執行文の不要な判決等もあります。) 不要
申立ての場所
(原則) 目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所等
申立書
手数料分の収入印紙(4,000円)
判決等の書類等
申立書
手数料分の収入印紙(4,000円)
一般先取特権の存在を証明する文言等の書類(*)等
何を差し押さえるのかを指定しなければなりません。(差し押さえられないものもあります。)
* 過去の給与明細書、社内規定類(就業規則や賃金規程)等が必要とされています。なお、強制執行の場合と違い、債務名義は不要なので、事前に裁判等を起こす必要がありません。
その証明にどれだけの文書が必要であるかは裁判所が判断します。

参考
○仮差押え

 この他、「仮差押え」という手続がありますが、これは、裁判等で争っている間に相手方の財産が散逸してしまうおそれがある場合に、相手方の財産を仮に差し押さえる手続ですので、上記に挙げた2種類の手続とは性質が異なります。

Q2-5 未払賃金に時効はあるの?
 退職手当を除く賃金の請求権は2年間、退職手当の請求権は5年間の短期消滅時効が定められています。(労基法第115条)
 時効の効力、援用、中断、停止等の時効制度については、民法の一般原則(民法第144条以下)によります。
 時効によって請求権が消滅するのを防ぐための時効中断事由には、
労働者の裁判上の請求
使用者の承認
差押え
仮差押え
などがあります。

 なお、時効によって賃金請求権が消滅した場合においても、刑事的には、公訴時効が完成するまでは、労働基準法の罰則の適用があることになります。

Q2-6 訴訟等の費用援助制度はあるの?
 裁判の援助や書類作成の援助が必要なのに、資力がない方のために以下の2つの援助制度が設けられています。
訴訟上の救助(民事訴訟法第82条以下)
民事法律扶助(民事法律扶助法)

制度の概要は以下のとおりです。

訴訟上の救助
民事法律扶助
制度
訴訟及び強制執行について、裁判所の決定により、裁判費用等の支払いを猶予等してもらう制度です。 裁判の援助や書類作成の援助が必要なのに資金がない方に、裁判手続費用や書類作成などを立て替えて、弁護士や司法書士を紹介する制度です。
援助主体
財団法人法律扶助協会
適用条件
・自分で費用を負担できないこと
 (費用を支払えないか、費用の支払いによって生活に著しい支障を来すこと)
・勝訴の見込みがないとはいえないこと
援助の種類 ・裁判費用の支払猶予
・執行官の手数料及びその職務に要する支払の猶予
・裁判所において付添いを命じた弁護士の報酬及び費用の支払の猶予
・訴訟費用の担保の免除
・無料法律相談
・弁護士費用の立替え
・書類作成費用の立替え
返還方法 負担することとされた相手方から直接取り立てます。 割賦で返還します。ただし、生活保護を受給している等返還が困難場合には、返還を猶予または免除されることもあります。
単身者  月収(手取)18.2 万円以下
2人家族 月収(手取)25.11 万円以下
3人家族 月収(手取)27.2 万円以下
4人家族 月収(手取)29.9 万円以下
以下1人増につき3万円を加算
*家賃、住宅ローン、医療費等の出費がある場合は考慮されます。
*東京や大阪等の大都市には上記の額に10%が加算されます。

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