第三者行為災害について
特に注意すべき事項について
1.自賠責保険等に対する請求権を有する場合について
自動車事故の場合、労災保険の給付と自賠責保険等(自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済)による保険金支払のどちらか一方を受けることができます。この場合、どちらを先に受けるかについては、被災者等が自由に選べます。
しかし、先に自賠責保険等から保険金支払を受ける場合(これを「自賠先行」と呼んでいます。)には、仮渡金制度や内払金制度を利用することによって損害賠償額の支払が事実上速やかに行われること、自賠責保険等は労災保険の給付より幅が広く、例えば、労災保険では給付が行われない慰謝料が支払われること、療養費の対象が労災保険より幅広いこと、さらに休業損害が原則として100%てん補されること(労災保険では60%)など被災者等にとって様々なメリットがあることから、自賠先行をおすすめしています。
自賠先行の場合には、同一の事由について自賠責保険等から支払われる限度額(注3)まで労災保険の給付は控除されます。
また、労災保険の給付を先に受ける場合には、同一の事由について自賠責保険等からの支払を受けることはできません。
なお、自賠責保険等に引き続いていわゆる任意保険(自動車保険又は自動車共済)による保険金支払を受けるか、若しくは労災保険の給付を先に受けるかについても、自賠責保険等と同様に、被災者等が自由に選べます。
(注3)自賠責保険等の保険金額の上限は死亡による損害の場合3,000万円、傷害による損害の場合120万円となっており、このほか後遺障害による損害について等級に応じて最高3,000万円まで(但し、介護を要する場合は最高4,000万円まで)支払われることとなっています。
なお、重過失(被災者側の過失割合が70~99%のとき)の場合を除き、保険金額の過失相殺は行われないことになっています。
2 人身傷害補償保険に対する請求権を有する場合について
人身傷害補償保険の保険金は、保険約款上、同一の損害について労災保険給付が受けられる場合には、その給付される額(社会復帰促進等事業の特別支給金を除く。)を差し引いて支払うものとされています。
そのため、労災保険として損害の二重てん補を未然に防止し円滑な事務処理を行う目的から、人身傷害補償保険からも保険金を受け取ることができる被災者等が労災保険給付の請求を行った場合には、人身傷害補償保険取扱会社に対して、労災保険給付の請求があった旨を通知する取り扱いを行っています。
3 示談を行う場合について
示談とは、被災者等が交通事故による不法行為などによって他人から損害を受けたことにより損害賠償請求権が発生した場合に、第三者との合意に基づいて早期に解決するため、当事者の話し合いにより互いに譲歩し、互いに納得し得る額に折り合うために行われるものであり、損害賠償請求権の全部又は一部を自由に免除することもできます。
なお、労災保険の受給権者である被災者等と第三者との間で被災者の有する全ての損害賠償についての示談(いわゆる全部示談)が、真正に(錯誤や脅迫などではなく両当事者の真意によること。)成立し、受給権者が示談額以外の損害賠償の請求権を放棄した場合、政府は、原則として示談成立以後の労災保険の給付を行わないこととなっています。
例えば、労災保険への請求を行う前に100万円の損害額で以後の全ての損害についての請求権を放棄する旨の示談が真正に成立し、その後に被災者等が労災保険の給付の請求を行った場合、仮に労災保険の給付額が将来100万円を超えることが見込まれたとしても、真正な全部示談が成立しているため、労災保険からは一切給付を行わないこととなりますので、十分に注意してください。
したがって、示談を行ったときは、速やかに労働局又は労働基準監督署に申し出るようにしてください。その際には、示談書の写しも提出するようにしてください。
なお、同一の事由について労災保険の給付と民事損害賠償の双方を受け取っている場合には、重複している部分について回収されることになりますので、この点についても十分に注意してください。