化学物質等による労働者の健康障害を防止するため必要な措置に関する指針
1.趣旨
2.化学物質管理計画の策定等
3.有害性等の特定及びリスクアセスメント
4.実施事項
5.監査等
6.記録
7.人材の養成
-
1.趣 旨
- 産業界で使用されている化学物質は、5万種類を超え、さらに毎年500から600種類の化学物質が新たに導入されている。これらの化学物質の中には労働者がばく露することにより健康障害を生ずるものがあり、化学物質による労働者の健康障害も毎年相当数発生している。この中には、事業場における化学物質の保管、貯蔵、運搬等の過程における漏えい、不適切な取扱い等による労働者の健康障害の事例も生じている。
さらに、近年、内分泌かく乱化学物質による健康影響の懸念、フロン代替物による健康障害が問題となる等化学物質をめぐる新たな問題も生じている。
これらの状況から、有害な化学物質等(労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第58条第1項に定める「化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で、労働者の健康障害を生ずるおそれのあるもの」をいう。以下「化学物質等」という。)を製造し、又は取り扱う事業者(以下「事業者」という。)は、化学物質等による労働者の健康障害を防止するため、事業場における化学物質等の管理を一層推進する必要がある。
事業場における化学物質等の管理は、法に基づく関係政省令等の規定に基づいて適切に行われなければならないことはもとより、法第58条第1項において、事業者自らが有害性等の調査を行い、その結果に基づいて、化学物質等による労働者の健康障害を防止するため必要な措置(以下「健康障害防止措置」という。)を講ずるように努めなければならないことが規定されている。
そして、健康障害防止措置が適切かつ有効に実施されるためには、その具体的な実施方法が事業場において確立していることが必要である。
本指針は、法第58条第2項に基づき、健康障害防止措置が適切かつ有効に実施されるよう、その原則的な実施事項について定め、事業者による化学物質等の自主的管理を促進し、もって、労働者の健康障害の予防に資することを目的とするものである。事業者は、健康障害防止措置の実施に当たっては、本指針を踏まえつつ、各事業場の実態に即した形で取り組むことが望ましい。 -
2.化学物質管理計画の策定等
- (1)事業者は、化学物質等の適切な管理のための実施事項を定めた計画(以下「化学物質管理計画」という。)を策定し、労働者に周知するものとする。
(2)化学物質管理計画には、次の事項を含むものとする。
イ化学物質等による労働災害の防止に関する労働安全衛生関係法令(これらに基づく告示等を含む。以下「法令等」という。)、化学物質管理計画等の遵守に関すること。
ロリスクアセスメント(化学物質等の有害性に関する情報を入手して、当該化学物質等の有害性の種類及び程度(以下「有害性等」という。)、労働者の当該化学物質等へのばく露の程度等に応じて労働者に生ずるおそれのある健康障害の可能性及びその程度を評価し、かつ、当該化学物質等へのばく露を防止し、又は低減するための措置を検討することをいう。以下同じ。)の結果に基づいた健康障害防止措置の策定及び実施に関すること。
ハ 事業場における化学物質等の保管、貯蔵、運搬(事業場外への輸送を含む。以下同じ。)等の適切な管理(化学物質等の漏えい又は盗用の防止を含む。)に関すること。
ニ 化学物質等を製造し、又は取り扱う設備(以下「設備」という。)からの化学物質等の溢出等大量漏えい等が生じた場合における労働者の当該化学物質等へのばく露による健康障害の防止に関すること。
ホ 化学物質等を製造し、又は取り扱う労働者についての当該化学物質等による健康影響の把握等健康管理に関すること。
ヘ その他化学物質等による労働者の健康障害の防止に関すること。
(3)事業者は、化学物質管理計画の作成に当たり、衛生委員会の活用等により、労働者の意見を反映させるものとする。 -
3.有害性等の特定及びリスクアセスメント
- (1) 事業者は、事業場において製造され、又は取り扱われる化学物質等について、有害性等の特定及びリスクアセスメントを実施するものとする。
この場合、事業者は、化学物質等の適切な管理について必要な能力を有する者のうちから化学物質等の管理を担当する者(以下「化学物質管理者」という。)を指名し、この者に、有害性等の特定及びリスクアセスメントに関する技術的業務を実施させるものとする。
(2) 化学物質管理者は、有害性等の特定及びリスクアセスメントに際し、化学物質等安全データシート(法第57条の2第1項に定める通知対象物(以下「通知対象物」という。)について、同項の規定により、譲渡し、又は提供する者から相手方に通知される文書等をいう。以下同じ。)又は通知対象物以外の化学物質等の有害性等に関する情報及びこれらの物質による健康障害防止措置に関する情報等(以下「有害性等の情報」という。)を積極的に活用するものとする。
(3) (2)において、事業者であって、化学物質等の譲渡又は提供を受けた者は、化学物質管理者に有害性等の情報を審査させ、当該情報のうち、不明確な事項、疑問のある事項等については、当該化学物質等を譲渡し、若しくは提供した者、化学物質等の有害性等に関する外部の専門家又は専門的な機関等に照会する等の方法により、当該事項について解明させるように努めるものとする。
(4) なお、事業者であって、通知対象物を譲渡し、又は提供する者は、化学物質等安全データシートを作成するのに必要な知識を有する者(以下「化学物質等安全データシート作成者」という。)にこれを作成させ、当該物を譲渡し、又は提供する相手方に交付するものとし、通知対象物以外の化学物質等を譲渡し、又は提供する者は、当該物について有害性等を調査し、かつ、当該物を譲渡し、又は提供する相手方にその結果を文書等で通知するように努めるものとする。 -
4.実施事項
- (1) 事業者は、法令等、化学物質管理計画等により、健康障害防止措置の実施事項を特定するとともに、これらを実施するものとする。
(2) 実施事項には、次に掲げる事項を含むものとする。
イ 化学物質等を製造し、又は取り扱う業務については、次により化学物質等へのばく露を防止し、又は低減するための措置を構ずること。
(イ) 作業環境管理a 使用条件等の変更
ロ 化学物質等を製造し、又は取り扱う作業に従事する労働者に対して、当該化学物質等に関して、次の事項について、労働衛生教育を行うこと。
b 作業工程の改善
c 設備の密閉化
d 局所排気装置等の設置
(ロ) 作業管理
a 労働者の当該化学物質等へのばく露を防止し、又は低減
するような作業位置、作業姿勢又は作業方法の選択
b 呼吸用保護具その他の保護具の使用
c 当該化学物質等にばく露される時間の短縮
(ハ) 局所排気装置等の管理
(イ)のdの措置を講じた場合は、次により局所排気装置等の管理
を行うこと。
a 作業が行われている間、有効に稼働させること。
b 定期的に保守点検を行うこと。
(ニ) 保護具の備え付け等
保護具については、同時に就業する作業者の人数と同数以上を
備え、常時有効かつ清潔に保持すること。
(ホ) 作業規程の作成等
次の事項について当該業務に係る作業規程を定め、これに基づき
作業を行わせること。
a 設備、装置等の操作、調整及び保守点検
b 異常な事態が発生した場合における応急の措置
c 保護具の使用
(ヘ) その他労働者の化学物質等へのばく露を防止し、又は低減するための措置(イ) 名称及び物理化学的性質
ハ 化学物質等の保管、貯蔵、運搬等においては、当該化学物質等が漏れ、こぼれる等のおそれがないように、堅固な容器に入れ、又は確実な包装を行うこと。
(ロ) 有害性等、ばく露することによって生じるおそれのある健康障害
及びその予防方法
(ハ) ばく露を防止し、又は低減するための設備及びこれらの保守点検
の方法
(ニ) 保護具の種類、性能、使用方法及び保守管理
(ホ) 異常な事態が発生した場合の応急措置
(へ) その他化学物質等による健康障害を防止するために必要な事項
また、当該化学物質等が盗用されることのないよう、必要な措置を構ずること。
ニ 化学物質等を事業場外へ廃棄又は排出する場合は、これらによる事業場の汚染の防止を図るとともに事業場外の汚染の防止に配慮すること。
ホ 設備に関し、適切な構造及び材質の選定、保守点検の励行、これらの設備を取り扱う作業についての適切な作業規程の作成及び当該作業規程に基づく作業の励行、適切な安全装置の設置等により、当該設備からの化学物質等の溢出等の事故を防止するための措置を構ずること。
ヘ ホの事故による化学物質等の大量漏えい等が生じた場合において、労働者の当該化学物質等へのばく露による健康障害を防止するために、避難経路の確保、緊急用の呼吸用保護具等の備え付け、洗眼・洗身の設備の設置等の対策をあらかじめ講じておくとともに、定期的に避難訓練を実施する等の必要な教育訓練を行うこと。 -
5.監査等
- (1) 事業者は、化学物質管理計画の実施状況について定期的に監査又はパトロール(以下「監査等」という。)を行うものとする。
(2) 事業者は、(1)の結果等に基づき、必要があると認めるときは、化学物質管理計画及びその実施について改善を行うものとする。 -
6.記録
- 事業者は、化学物質管理計画の実施状況、監査等の結果等に関し必要な事項を記録するとともに、これを保管するものとする。
-
7.人材の養成
- 化学物質等安全データシート作成者及び化学物質管理者は、それぞれの専門分野において十分な知識を有していることが必要である。
このため、事業者は、これらの人材の養成に努めるものとする。