1 化学物質管理指針
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指針の名称 |
化学物質等による労働者の健康障害を防止するため必要な措置に関する指針(平成12年3月31日) |
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(1) |
指針の趣旨 |
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化学物質による労働者の健康障害を防止することは、事業者の責務です。
労働者の健康障害を防止するため、事業者は、労働安全衛生法や関係法令に基づく措置を講ずることはもとより、自ら進んで化学物質の有害性情報の収集や健康障害を防止するための措置の策定等に取り組む必要があり、労働安全衛生法第58条第1項においても事業者による有害性の調査等が定められています。
この指針は、化学物質による労働者の健康障害を防止するため事業者が講ずる措置に関して、適切かつ有効な実施を図るために公表されたものです。
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(2) |
指針の概要 |
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化学物質管理指針は、従来からの化学物質によるばく露防止対策を中心とした労働衛生管理のみならず、リスクアセスメントの実施等新たな考えを盛り込んだものとなっており、その概要は次のとおりです。
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1 化学物質管理計画の策定 |
事業者は化学物質管理計画(化学物質等の適切な管理のための実施事項を定めた計画)を策定し労働者へ周知
(1) |
化学物質管理計画で定める事項 |
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A |
労働安全衛生法等関係法令の遵守に関すること |
B |
リスクアセスメントの結果に基づいた健康障害防止の措置の策定と実施 |
C |
化学物質等の保管、貯蔵、運搬等の適切管理(漏えいの防止、盗用防止を含む) |
D |
化学物質等の大量漏えい等が生じた場合の措置 |
E |
労働者の健康影響の把握等健康管理に関すること |
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2 有害性等の特定及びリスクアセスメント |
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A |
化学物質管理者(化学物質等の適切な管理に必要な能力を有する者の
うちから化学物質等の管理を担当する者)の氏名 |
B |
事業場内で製造、取り扱われる化学物質等について有害性等の特定及
びリスクアセスメントの実施 |
C |
有害性等の特定及びリスクアセスメントにおいてMSDS等の有害性
情報の活用 |
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3 実施事項 |
化学物質管理計画等により、健康障害防止措置の実施事項を特定し、これらを実施する。
(1) |
実施事項 |
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A |
化学物質等の製造・取り扱いにおけるばく露防止又は低減措置 |
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イ |
作業環境管理 |
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使用条件の変更、作業工程の改善、設備の密閉化、局所排気装置
等の設置 |
ロ |
作業管理 |
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ばく露防止又は低減のための作業位置、作業姿勢、作業方法の選
択、保護具の使用、ばく露される時間の短縮
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ハ |
局所排気装置等の稼働と保守点検 |
ニ |
保護具の備え付けと有効かつ清潔な保持 |
ホ |
作業規程の作成 |
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B |
作業者への労働衛生教育の実施 |
C |
保管、貯蔵、運搬における漏えい防止と盗難の防止 |
D |
排気、排出時の汚染防止の配慮 |
E |
設備の保守点検 |
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4 その他 |
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A |
化学物質管理計画の実施状況の定期的な監査又はパトロール |
B |
実施状況、監査等の結果について記録と保存 |
C |
人材の養成 |
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2 有害性等情報通知制度(MSDS制度)について |
(1) |
有害性等情報通知制度 |
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労働者に健康障害を生じるおそれのある一定の化学物質を譲渡し、又は提供する者は、その化学物質にかかる有害性等の情報を文書(MSDS)等により譲渡先又は提供先に通知することが労働安全衛生法第57条の2により、義務づけられています。
また、事業者は、通知された化学物質にかかる有害性等の情報を労働者に周知することが義務づけられています。
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(2) |
通知対象物(労働安全衛生法第57条の2により譲渡・提供先にMSDS等による情報の通知の対象となる化学物質)
A |
労働安全衛生法施行令別表9に掲げる物質 |
B |
労働安全衛生法第56条第1項に掲げる物質(製造許可物質) |
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(3) |
通知すべき事項 |
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名称、成分及び含有量、物理的及び化学的性質、人体に及ぼす影響、貯蔵又は取扱い上の注意、流出その他の事故が発生した場合の応急措置通知を行う者の氏名(法人名)及び住所
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(4) |
労働者への周知(労働安全衛生法第101条第2項) |
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譲渡・提供された化学物質を取り扱う(使用する)事業者は、通知されたMSDSを、当該物を取り扱う労働者に、作業場の見やすい場所に常時掲示し又は備え付けること等により周知しなければならない。
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MSDSとは、Material Safety Data Sheet(化学物質等安全データシート)の略で、有害な化学物質について、物質名、供給者、有害性、取扱い上の注意、緊急時の措置などについて詳細かつ不可欠な情報を含んだ資料のことをいいます。 |
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通知対象物以外の物質についても、平成4年7月1日労働省告示第60号「化学物質等の危険有害性等の表示に関する指針」の別表に該当する化学物質であれば、指針に基づきMSDS等の通知・周知をして下さい。
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3 ダイオキシン類に関する対策等について |
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1 ダイオキシン類とは |
ポリ塩化ジベンゾフラン、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン、コプラナ-PCBをダイオキシン類といいます。ダイオキシン類は、意図的に作られたものではなく、廃棄物を焼却する過程で自然に生成してしまう物質です。 |
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2 ダイオキシン類のばく露防止措置 |
労働安全衛生規則では、廃棄物焼却施設における
A |
ばいじん及び焼却灰その他の燃え殻の取り扱いの業務 |
B |
焼却炉、集じん機等の設備の保守点検等の業務 |
C |
焼却炉、集じん機等の設備の解体の業務 |
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にかかる作業(廃棄物焼却施設内作業)における労働者のダイオキシン類へのばく露防止措置を下記のように規定しています。
また、事業者が講ずべき基本的な措置を一体的に示し、これらの措置を総合的に講じることにより、労働者のダイオキシン類へのばく露防止の徹底を図るため「廃棄物焼却施設内作業におけるダイオキシン類ばく露防止対策要綱」が定められています。 |
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廃棄物焼却施設における対象作業 |
事業者の講ずべき措置内容(労働安全衛生規則) |
ばいじん、焼却灰燃え殻の取り扱い業務 |
A 安全衛生のための特別教育
B 作業場のダイオキシン類濃度測定
C ばいじん等の発散源の湿潤化
D 適切な保護具の使用
E 作業指揮者の選任 |
焼却炉、集じん機等の設備の保守点検業務 |
A 安全衛生のための特別教育
B 作業場のダイオキシン類濃度測定
C 適切な保護具の使用
D 作業指揮者の選任 |
焼却炉、集じん機等の設備の解体業務 |
A 安全衛生のための特別教育
B 工事開始前の解体工事計画の監督署長への届出
C 作業開始前の設備付着物のダイオキシン類濃度測定
D 作業開始前のダイオキシン類汚染物の除去
E 粉じん等発散源の湿潤化
F 適切な保護具の使用
G 作業指揮者の選任 |
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4 粉じん障害の防止について |
(1) |
じん肺とは |
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粉じんを吸入することにより発症する「じん肺」は、古くから知られている代表的な職業病です。
鉱物、金属、アーク溶接のヒューム等の粉じんのうち、微細な粉じん(粒径5マイクロメータ以下)は肺の奥深くの肺胞まで入り込み沈着します。
これらの粉じんを吸い続けると、肺内で繊維増殖が起こり、肺がニカワのように固くなって呼吸が困難になります。これがじん肺です。
じん肺は、一度り患すると直らない病気であり、じん肺にかからないように予防が極めて重要です。 |
(2) |
粉じん作業 |
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粉じん作業とは、粉じん障害防止規則及びじん肺法別表で定められた鉱物などの掘削作業、金属の研磨作業、アーク溶接作業などをいいます。
労働者に粉じん作業を行わせる場合には、じん肺法、粉じん障害防止規則(石綿の場合は特定化学物質等障害防止規則)の適用があり、これらの法令に基づく粉じん障害防止措置等を講じることが必要です。 |
(3) |
粉じん発散源対策及び粉じんばく露防止対策 |
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A |
粉じん発生の少ない生産工程、作業方法等への改善、材料等の変更 |
B |
特定粉じん発散源について密閉化、局所排気装置またはプッシュプル型
換気装置の設置、湿潤化等の措置 |
C |
特定粉じん発散源以外の粉じん作業を行う屋内作業場に全体換気装置等の設置 |
D |
作業環境測定の実施及びその結果に基づく適性な事後措置の実施 |
E |
防じんマスク等呼吸用保護具の適正な使用 |
F |
粉じん作業従事者に対する特別教育及び特別教育に準じた教育の実施 |
G |
局所排気装置等の定期的検査及び点検の実施 |
H |
たい積粉じんによる2次的発散の防止のための清掃の実施など |
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(4) |
粉じん作業従事者に対するじん肺健康診断の実施 |
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じん肺法に基づいて事業者が実施すべき健康診断は、就業時健康診断、定期健康診断、定期外健康診断、離職時健康診断があります。
粉じん作業従事との関係
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じん肺管理区分 |
実 施 頻 度
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常時粉じん作業に従事 |
管理1 |
3年以内ごとに1回 |
管理2
管理3 |
1年以内ごとに1回 |
常時粉じん作業に従事したことがあり、現に非粉じん作業に従事 |
管理2 |
3年以内ごとに1回 |
管理3 |
1年以内ごとに1回 |
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5 腰痛の予防 |
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職場における腰痛は、東京労働局管内で発生した業務上疾病の約7割を占めています。しかも、製造業、建設業、運輸交通業などのいろいろな業種でみられることから、その予防対策を積極的に推進することが重要です。
平成6年に「職場における腰痛予防対策指針」が策定されており、事業者は、この指針を踏まえて、事業場の実態に即した対策を講じることが必要です。
指針のポイントは次のとおりです。 |
(1) |
一般的な腰痛の予防対策 |
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1 作業管理 |
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A |
自動化・省力化
自動化、省力化による労働者の腰部への負担の軽減 |
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B |
作業姿勢、動作
腰部に負担のかかる中腰、ひねり、前屈、後屈ねん転等不自然な姿勢、
急激な動作をとらない。 |
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C |
作業標準
腰痛の予防に配慮した作業標準を策定する。 |
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D |
休憩
横になって安静を保てる十分な広さの休憩設備の確保に努める。 |
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2 作業環境管理 |
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A |
温度
筋・骨格系の活動状態を良好に保つために作業場内の温度管理や作業
者の保温に配慮する。 |
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B |
照明
作業場所、通路、階段等の形状が明瞭に分かるよう適切な照度を保つ。 |
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C |
作業床面
作業床面はできるだけ凹凸がなく、防滑性、弾力性、耐衝撃性及び耐
へこみ性に優れたものにすることが望ましい。 |
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D |
作業空間
不自然な作業姿勢、動作を避けるために作業空間を十分に確保する。 |
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E |
設備の配置
適切な作業位置、作業姿勢、高さ、幅等を確保することができるよう設備の配置等に配慮する。 |
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3 健康管理 |
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A |
腰痛の健康診断
常時従事する労働者に対し、配置前その後6月以内ごとに定期に実施 |
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B |
作業前体操
始業時、作業開始前等に腰痛予防を目的とした腰痛予防体操を実施 |
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4 労働衛生教育 |
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常時従事する労働者に対し、腰痛の予防に配慮した教育の実施
「腰痛予防のための労働衛生教育実施要綱」が定められています。 |
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6 熱中症の予防 |
(1) |
熱中症 |
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熱中症とは、高温の環境下で体温調節や循環機能などの働きに障害が起こる病気で、症状などにより、熱射病、熱けいれん、熱虚脱、熱疲はいに分類されます。 |
(2) |
熱中症を防ぐには |
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直射日光により高温環境となる屋外作業場所などでは、熱中症を予防するために次の事項を守って下さい。
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A |
作業の面から
日よけや風通をよくするための設備を配置し、作業中は適宜散水する。
水分、塩分の補給のためのスポーツドリンクなどや身体を適度に冷やすことのできる氷、冷たいおしぼりなどを備え付ける。
作業中の温湿度の変化がわかるよう、温度計、湿度計を設置する。
日陰などの涼しい場所に休憩場所を確保する。 |
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B |
作業の面から
十分な休憩時間や休業休止時間を確保する。
作業服は吸湿性、通気性の良いもの、帽子は通気性の良いものを着用する。 |
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C |
健康の面から
健康診断結果などにより、健康状態をあらかじめ把握しておく。
作業開始前はもちろん、作業中も作業者の健康状態を確認する。 |
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D |
労働衛生教育の面から
熱中症とその予防等について作業者に教育する。 |
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(3) |
救急措置 |
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作業開始前にあらかじめ緊急連絡網を作成し、関係者に周知する。
また、作業場所の近くの病院や診療所の場所を確認すること。
熱中症は、早期の措置が大切です。少しでも異常が見られたら下記の手当を行って下さい。回復しない場合及び症状が重い場合などは、救急車を手配するなど早急に医師の手当を受けて下さい。
手 当 の 方 法
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A 涼しいところで安静にする。
B 水やスポーツドリンクなどをとらせる。
C 体温が高いときは、裸体に近い状態にし、冷水をかけながら扇風機の風をあてる。氷でマッサージするなど体温の低下をはかる。 |
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